2012年度

2012年度第7回 パレスチナ研究班定例研究会

概要

  • 日時:2013年3月16日(土)13:00~18:00、3月17日(日)9:00~12:00
  • 会場:京都大学 吉田キャンパス本部構内 総合研究2号館4階第1講義室(AA401)
  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究 東京大学拠点(TIAS)
  • 共催:京都大学地域研究統合情報センター(CIAS) 「地域研究における情報資源の共有化とネットワーク形成による異分野融合型方法論の構築」研究会(2012年度第3回)

報告

今回の研究会では、通常のように特定の報告者による研究報告にもとづき質疑を行なうのではなく、 CIAS共同研究会としてこれまで実施してきた二年間の成果を踏まえ、異分野融合型の研究方法論をメンバー全員で議論する形式で行われた。

異なる方法論やディシプリンから得られる刺激や、それぞれ方法論の利点・欠点、相互の連携・補完の可能性などについて、 記述式で回答する形式のアンケートを事前に参加者に配布し、集計したものを題材に議論を行なった。 議論では、各自の専門とこれまで行なってきた研究の経緯に基づき、調査データの共有により異なる専門の研究者が 新たな視覚で分析を加えることの可能性や、逆に近似の研究手法の研究者の間で異なる対象地域について行なう研究成果の比較が 生み出す成果への期待など、今後の展開への可能性が積極的に提案された。また学問と実社会との関係について、 あるべき姿や、実際のあり方がどう理解されるか、といった点についても、様々な意見が交わされた。 パレスチナ研究の文脈においては、地域像に関連して、論じられる国家の像が歴史的に大きく変容してきたこと、 そうした変化が現実による理念の裏切りに基づくものだったことなどが指摘された。また6月に開催された議論専用会に関連して、 日本人としてパレスチナを研究することの意義についても、現地への貢献、日本国内での中東文化についての紹介、 など更に広い範囲の内容が議論された。地域研究自体のディシプリンとしてのあり方についても、 その来歴についての紹介とともに、研究会参加者各自からの認識が論じられ、欠点を克服するための共同研究のあり方について、 積極的に評価する意見が出された。最後に、本研究会の成果を受けて、今後共通で取り組むべき課題の模索がおこなわれ、 共通の問題関心として「パレスチナ/イスラエルにおけるコミュニティの変容と国家」について次年度以降、取り上げていくことが合意された。 (錦田愛子/東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

2012年度第6回パレスチナ研究班・定例研究会報告

概要

  • 日時:2013年2月16日(土)12:00~18:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階大会議室
  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究 東京大学拠点(TIAS)
  • 共催:京都大学地域研究統合情報センター(CIAS) 「地域研究における情報資源の共有化とネットワーク形成による異分野融合型方法論の構築」研究会(2012年度第2回)
  • 報告
    1. 鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科(博士課程)・日本学術振興会特別研究員DC)
      「抵抗の軌跡と1987年インティファーダ:キャンプ・デーヴィッド合意(1978年)以降を中心に」

    2. 錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教)
      「パレスチナ政治指導部の変容と二つのインティファーダ」
  • 趣旨
  • パレスチナ/イスラエルという地域をめぐっては、さまざまな関わり方があり得る。 この度の研究会では、パレスチナにおけるインティファーダ(民衆蜂起)という共通のテーマを扱いながら、 研究と報道という異なる分野の専門家の間で、方法論の異なるアプローチによりどのように事象を分析可能か、 その比較を試みる。また各々の知見を深め合い、ネットワークの共有により情報資源を活用する可能性について考える。

報告

鈴木啓之ならびに錦田愛子による研究発表の後に、パレスチナ/イスラエルに長年かかわり、ジャーナリスト、 映画監督としても著名な土井敏邦氏よりコメントを受ける形をとった。

鈴木報告では、1987年の大衆蜂起インティファーダにいたる歴史的過程とインティファーダの変容に関して、 一次資料をもとに考察を加えた。このなかでは、被占領下で活発化した組織活動(福祉団体や労働組合、学生団体など)が 大衆蜂起へ至る過程を述べ、指導部の存在によって1987年のインティファーダは、それ以前の短期間の蜂起と区別されることを論じた。 会場からは、イスラーム主義学生団体の台頭の詳細に関する質問や、1936年のアラブ大反乱との類似性を指摘するコメントが付された。

錦田報告では、1987年のインティファーダ(以降「第一次インティファーダ」と記述)と2000年に開始された 第二次インティファーダを運動として比較し、それぞれの特徴に分析を加えた。第一次インティファーダが非武装抵抗を中心とする 大衆蜂起という性格を持つものであったのに対し、第二次インティファーダは武装組織が運動の中心を担ったことで、 武装闘争が全面に押し出されたとの事実が提起された。会場からは、「テロとの戦い」と第二次インティファーダとの関連性などに ついてコメントが付された。

土井氏によるコメントは、それぞれの報告に関して別個に付されたが、共通して3つの点に注意が喚起された。 第一に、「この研究を現地のパレスチナ人に聞かせられるか」という視点が提起された。研究者としての簡潔な記述に努める裏返しとして、 現地の人びとが聞いた際に違和感を覚えるような論理展開をしてはいないかとの問いが投げかけられた。 第二に、現地で生きる人びとの姿を記述する必要性が説かれた。例えば、1987年のインティファーダでは、 多くの子どもが催涙ガスなどによって命を落としているが、その母親たちの声を取り上げるような姿勢が研究にも 求められるのではないかと提起された。 第三に、個人の顔が見える記述を心がけるべきであるとの見解が示された。組織や政治構造の議論に終始することで、 現実離れした分析を行ってはいないかと自戒を求めるものであった。
これらの観点を踏まえ会場からは、研究者としての文章記述にいかなる特徴と限界があるかについての意見や、 逆に研究者として現地を見る利点の提起、異業種間の情報交換フォーラムの設置の提案などが発言され、活発な議論がなされた。 (鈴木啓之/東京大学大学院総合文化研究科)

国際ワークショップ“「アラブの春」後のパレスチナ/イスラエルはどこへ行くのか?” TIAS-JSPS International Workshop “Whither Palestine/Israel after “the Arab Spring”?

概要

  • 日時:2013年1月14日(月)13:00-17:30
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階大会議室
  • 報告
    1. Walid Salem (the Director, the Palestinian Center for the Dissemination of Democracy and Community Development in East Jerusalem)
      “The Changes in the Region and their Impact on the Prospects of Comprehensive Middle Eastern Peace”
    2. Adam Kellar (Spokesperson, Gush Shalom)
      ”Wrestling on a Shaky Ground - Israelis, Palestinians, the Arab Spring and a Declining Superpower”
    3. Yakov Rabkin (Professor, Montreal University)
      “Three Non-Western Nuclear Powers (China, India, Russia) and the Israel/Palestine Conflict”
  • コメンテーター
    1. Hong, Meejeong (Research Professor, Dankook University, Seoul)
    2. Yoo, Si-gyung (Sub Dean, Seoul Anglican Cathedral, Seoul)
    3. 小田切拓 (ジャーナリスト) 

パレスチナ研究班・研究会「エルサレムの現在とイスラエル/パレスチナの新しい未来像 (Contemporary Jerusalem and New Vision for Israel/ Palestine)」

概要

  • 日時:2012年10月31日(水)16:00~19:00
  • 会場:東京大学東洋文化研究所 第一会議室
  • 主催:NIHUプログラム「イスラーム地域研究」東京大学拠点パレスチナ研究班
  • 共催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・基幹研究「中東・イスラーム圏における人間移動と多元的社会編成」 /MEIS「中東イスラーム研究拠点」

  • 趣旨
  • 講師略歴:バシール・バシールDr. Bashir Bashir
          (エルサレム・ヘブライ大学講師)

    アッカー在住のパレスチナ人研究者で、ロンドン大学LSEで修士および博士号(政治理論)を取得し、 現在、エルサレム・ヘブライ大学政治学部の講師で政治理論を教える。ヴァン・リア・エルサレム研究所フェロー。 専門は、民主的包摂の理論、熟議民主主義、マルチカルチュラリズム、パレスチナのナショナリズムと政治思想など。 編著は『多文化社会における和解の政治』W.キムリッカと共編(オックスフォード出版、2008年)、 「シオニズムの正義/不正義を問いなおす:パレスチナ・ナショナリズムへの新たな挑戦」Ethical Perspectives 18(4): 632-645(2011年)など多数。

    This lecture seeks to contribute to thinking differently, namely out of the box on the question of Israel/ Palestine through focusing on the city of Jerusalem. More precisely, this talk argues that a closer examination of the realities in Jerusalem and the city's symbolic capitals demonstrate the failure of the logic of partition and separation to bring to a historical reconciliation in Israel/ Palestine. Jerusalem stands there calling a different ethics that should guide the future of historic Palestine. According to this ethics, the rights and identities of the Arabs and Jews in Palestine are inseparable practically and ethically.

    この報告ではイスラエル/パレスチナ問題について、特にエルサレムに注目しながら新たな思考を試みる。 エルサレムにおける現実や、この街のもつ象徴資本としての価値は、イスラエル/パレスチナの歴史的和解に向けて、 分割・分離の論理は通用しないことを示している。エルサレムは歴史的パレスチナの未来を導くにあたって、 異なる倫理を必要としており、この倫理に従えば、パレスチナにおけるアラブとユダヤの権利やアイデンティティは、 倫理的にも実際上も分離不可能といえるのである。*エルサレム在住のパレスチナ人であるバシール氏による、 こうした問題提起を受けて、研究会では参加者との間で活発に議論を戦わせていきたい。

報告

本報告では、不可分な都市エルサレムを象徴としてとりあげ、パレスチナ/イスラエルをめぐり展開されてきた分割のロジックの限界について論じられた。 現在のエルサレムでは、アラブとユダヤそれぞれの権利およびアイデンティティが相互に不可分なものとなっており、 分割は倫理的に擁護できない状況となっている。分割は、道徳的にも非人道的な結果をもたらす。 こうした状況は、エルサレムのみならず、鳥瞰的にみると歴史的パレスチナの全土に対していえることである。 これはつまり、相互承認や互恵性を前提として二つのネイションの共生を図る、バイナショナル政治が不可欠であることを示すものである。 こうした考えは、実際に流離(exile)を経験した双方の知識人の間から導きだすことができる。 エドワード・W・サイードや、ハンナ・アーレントはその一部だ。彼らは流離を強いられたことにより、 自身の難民としての経験をもとにコスモポリタンな流離の倫理を抱くに至った。パレスチナ/イスラエルにおいて二国家を語ることは、 それ自体が暴力的なことである。パレスチナのナショナリズム運動は、こうした状況を避けるため、 1960~70年代までは領域的ナショナリズム(領域内の住民すべてをひとつのネイションとみなす)であったが、 その後はエスニック・ナショナリズム(エスニック集団ごとのナショナリズム)に変わってしまった。 サイードは前者の支持者だった。パレスチナとイスラエル双方の政治家は、後者にもとづき分割の議論を進め、 現実に進んでいるアラブとユダヤの不可分に結びついた生活の実態を無視している。しかし今後は、 これまでのような分割のロジックを越えた発想が重要となる。

以上の報告をふまえ、質疑ではパレスチナ/イスラエルといった表現を用いることの意義、 「アラブのエルサレム」と言った場合に何が含意されるのか、サイードによるバイナショナリズムの支持などをめぐって議論がなされた。 報告者は政治哲学が専門であり、自身がパレスチナとイスラエル双方の実務者を招いた対話のプロジェクトを主催しておられることもあり、 近年議論が盛んになっている分割を超えた新しい未来像について、生き生きとした話を聞くことができた。

(錦田愛子/東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)

2012年度第2回(通算第18回)パレスチナ研究班定例研究会

概要

  • 日時:2012年7月28日(土)・29日(日)
    各13時00分~17時30分(15時前後に約10分の休憩)
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階大会議室
  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究 東京大学拠点(TIAS)
  • 共催:京都大学地域研究統合情報センター(CIAS) 「地域研究における情報資源の共有化とネットワーク形成による異分野融合型方法論の構築」研究会(2012年度第2回)

  • プログラム <7月28日>
    • 報告
      1. 佐藤寛和(岡山大・院)「パレスチナ問題の相克と政治的解決―UNSCOPの活動を事例として―」
        コメンテーター:池田有日子(京都大CIAS)
      2. 今井静(京都大・院・学振特別研究員)「中東和平プロセスの展開とヨルダンの経済外交―対イスラエル関係を中心に―」
        コメンテーター:錦田愛子(東外大AA研)

    <7月29日> ※2つ目は英語によるセッション(通訳なし)
    • 報告
      1. 鈴木隆洋(同志社大・院)「貨幣・権力・占領」
      2. Esta Tina Ottman(京都大・准教授) “History’s wound: To what extent does the concept of collective trauma contribute towards understanding of Israeli and Palestinian positions in the Israel/Palestine conflict?”

28日分報告

第1報告者の佐藤寛和氏(岡山大学院)からは、国際連合の特別委員会UNSCOPのパレスチナ分割決議案の成立過程について報告がなされた。 佐藤氏によれば、分割決議案に至る議論では、アラブ・パレスチナ人側の交渉における非妥協的姿勢や「拒絶」とシオニストの側の 「現実的」な交渉戦略が、ユダヤ人難民問題の解決が一方で念頭にあったUNSCOPの決定を左右した。 UNSCOPの分割案提示に至る過程へのこうした考察に加え、佐藤氏は、当時分割案とともに提示され否決された連邦制案に注目し、 分割案に基づいて行われてきた政治交渉が停滞している現在において連邦制案に改めて注目する必要性が主張された。

これに対し、コメンテーターの鶴見太郎氏は、国際連合に内在する国際社会での権力の問題、 その非中立的な存在としての側面についてふれることの重要性を指摘した。さらに、 「民族」を単位とする政治を構想する点では分割案と同じ連邦制は、パレスチナにおいて成功するのだろうかという疑義が示された。 また、フロアからも同じくイギリスや国際連盟から続く分割案の歴史的背景とそこに存在するコロニアルな問題についての指摘が出された。 今後そうした批判がくみ取られつつ、パレスチナ分割案というものがいついかなる文脈で生まれてきたのか、 アラブ・パレスチナ側が最終的になぜその「拒絶」に至ったのかについての考察が踏まえられた上で、 現実政治の問題解決に向けた佐藤氏の研究が進められることを期待したい。

第2報告者の今井静氏(京都大学院)からは、中東和平プロセス下でのヨルダンの貿易政策の転換とそのイスラエル、 パレスチナ自治地区への影響について報告がなされた。今井氏によれば、経済的資源に乏しいヨルダンは、 80年代まで主要な経済的パートナーだったイラクの代替国としてイスラエルを90年代に新たなパートナーとする政策がとられていった。 輸出加工免税特区の建設などを伴ったそうした貿易システムは、和平プロセス停滞以後の現在も継続している。 一方で、両国の間でヨルダン川西岸地区の存在が埋没してくという指摘がなされた。 こうした今井氏の視点は、パレスチナ/イスラエルとそれを取り巻く中東地域での複雑な政治経済状況の一端を明らかにしようとしている点で興味深い。

文責:吉年誠(一橋大学)

29日分報告

鈴木隆洋氏による報告は、イスラエルによるヨルダン川西岸・ガザ地区の占領について、 貨幣および金融制度から占領体制の構造の一端を明らかにすることを目的としたものであった。 鈴木氏は、以下の二点を現在のパレスチナ自治区における金融制度の問題として取り上げている。 一点目は、パレスチナ自治区が独自の通貨を持っておらず、イスラエルの通貨である新シェケルの使用を続けていることで、 例えばイスラエルのハイパーインフレに巻き込まれるといった不利益が生じることである。 二点目は、現行の決済システムの下では自治区が手形交換所を持たないために、 手数料や強制預金の発生によってパレスチナ系銀行からイスラエル系銀行への資本流出が発生していることである。 これら二つの問題を明らかにすることで、報告者は金融制度がイスラエルによる支配を強化しており、 パレスチナ自治区の経済的自立を阻害していると結論付けた。

これに対して、参加者からはパレスチナ自治区における金融制度についての研究が少ないことから、 まずはその重要性が指摘された。一方で、かつて西岸地区を併合していた隣国ヨルダンの銀行が自治区の全預金額の半分以上を保有していることや、 自治区内の銀行による貸し付けの大部分が企業ではなく個人を対象としていること、 そしてイスラエルによる占領下で銀行が閉鎖されていた間その代替機能を果たしてきた両替商が現在でも数多く存続していることから、 自治区内のパレスチナ系銀行による経済活動のインパクトそのものについての検討の必要性が指摘された。 さらに、ヨルダンや自治区外に居住するパレスチナ人との関係から、 いわゆる「パレスチナ資本」はパレスチナ自治区という領域に制限されるものなのか、 といった本報告を対象とするにとどまらない示唆的な課題も提示された。

Esta Tina Ottman氏の報告は、ナクバとホロコーストというパレスチナおよびイスラエルの双方が抱えるトラウマが、 各集団内で共有され互いに相手を非難する言説を作り出していることで、パレスチナ問題の解決が困難となっていることを指摘するものであった。 そのためにOttman氏は、戦争や暴力による精神的なダメージの把握に関する現在までの歴史的推移を心理学的な観点や社会的、 政治的側面から明らかにした後、パレスチナおよびイスラエルにおける集団的なトラウマがどのようなものであるかを、 先行研究を基に明らかにした。 これに対して、参加者からは主に普遍的な論点として個別のトラウマが集団性を獲得する過程や、 世代を超えて受け継がれる経緯といった点について関心が集まった。とりわけ、日本における広島、 長崎への原爆投下と平和祈念館における記憶の試みとの比較的な視座が提示され、たとえば、双方においてトラウマを表象するシンボルを形成することの 意義といったテーマを中心に議論が行われた。また、これらの議論の過程で、イスラエルにけるシオニストによるホロコーストの記憶占有といった、 イスラエル国家の在り方をめぐる問題も提起された。

文責:今井静(京都大学大学院)

パレスチナ/イスラエルに関する基本的な視点について議論するための研究会報告

概要

  • 日時:2012年6月10日(日)
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階大会議室
  • 主催:イスラーム地域研究東京大学拠点/京都大学地域研究統合情報センター地域研究方法論プロジェクト共催

  • プログラム
    1. 趣旨説明(鶴見太郎)
    2. 議論の題目
      1. 「『和平』をどう捉えるか-イスラエル/パレスチナ紛争における言説の錯綜」 (論題提供者:錦田愛子・東外大AA研助教、中東現代政治・移民・難民研究)
      2. 「ナショナリズムという用語は普遍的か」 (論題提供者:鶴見太郎・明学大・東大非常勤講師、社会学・ロシア東欧系ユダヤ史・シオニズム史)
      3. 「歴史学の語りと近代的自己像はいかに関連するか」 (論題提供:武田祥英・千葉大院、歴史学・英国委任統治前史)
      4. 「日本で研究する/日本から研究する:その意義と課題、そして発展」 (論題提供者:鈴木啓之・東大院・学振DC、地域研究・パレスチナ抵抗運動史)

報告

錦田氏は「『和平』をどう捉えるか-イスラエル/パレスチナ紛争における言説の錯綜」というタイトルで報告を行った。 最初に対象との関わりから自分が何を行いたいのかという提起が行われた。研究者は純粋中立ではあり得ないが、 日本から来た者でありいわゆる「直接の当事者」ではないという立場性を研究上どう用いるかについて論じた。 最後に「和平」をめぐって各グループ(立場の異なるパレスチナ人、シオニスト)間にある齟齬についての分析を発表した。 それに対し会場からは、「和平」を巡る齟齬は元より在り、今出す意味は何なのか、ここから何をするのかと声が上がった。 また各グループ内の分岐点の指摘(例えば階級か、宗教か)もされた。最終的にはグルーピングの必要性と それが分断の固定化という政治へつながりかねない危うさについて話者質問者双方が同意した。

次に鶴見氏が「ナショナリズムという用語は普遍的か」というタイトルで報告を行った。 「パレスチナ人など存在しない」とゴルダ・メイールは発言したが、シオニストの民族観は各民族の居住地は広がりが在ったとしても 民族的本拠地が必要だというもので、本拠地内の他民族はマイノリティとして処遇されるべきであるというものだ。 氏は反批判の三類型として「パレスチナ人独自民族論」「ユダヤとは民族ではなく宗教」「個人しか存在しない」を挙げた。 しかしそれぞれ「「民族対立」論に嵌まる」「キリスト教的宗教概念をユダヤに適応してしまう」 「当事者自身がなんらかの集合性を前提としている」という問題が在ると報告した。 そしてナショナリズムはそれぞれ固有の文脈とスタイルを持っており、ただ一つの物として理解するのは無理が在り、 パレスチナ人の運動は社会運動としてみるべきだと結論づけた。それに対し会場からはナショナリズムは思想だけではなく、 運動と組織という面も持っていると指摘された。また分析用語と政治用語の重なりと質的相違、 また現場の課題と研究上の課題の異同についても指摘があった。

三番手として武田氏は「歴史学の語りと近代的自己像はいかに関連するか」というタイトルで報告を行った。 その内容は、肉体に縛られた存在としての人間精神の限界を知り、集団形成や世論形成における無意識的な精神作用を知り、 自らを社会集団内に位置づける事によって得られる安心を歴史学が提供してしまう事への自戒を求め、 「安心を提供しない歴史学」を提起するものだった。

それに対し会場からは、歴史とは一人一人がまた主体的に選び取る物でもあるという指摘や、 個人・集団に取って忘れた振りやねつ造が必要になるときがあるという指摘、 またこの問いを進めるためには武田氏自身が考える「近代自己像」を自己解体する必要があるのではないかとの提起もなされた。 これに応えて武田氏からは各人の認知への介入という観点からプロスペクト理論を 学ぶことは人間精神を理解する上でやはり意義がある旨を説明した。

最後に鈴木氏が「日本で研究する/日本から研究する:その意義と課題、そして発展」というタイトルで報告を行った。 その内容は、「日本人」が研究する以上「地理的/時代的/言語的な制約・拘束」があり、 それは例えば言語の翻訳の問題であり、また何らかの現地とつながろうとする試みにおける用語選択(連帯から世界革命戦争まで)の問題である。 続けて鈴木氏は制約を転じて強みにする方法として、「外国人」による地域研究を参照する。 翻訳や提言、フィールド調査、時刻への還元なき研究は無意味なのかとの問いを提出した後、 鈴木氏は生い立ちやトラウマまで含めた個人的関心が研究に入り込む事を自覚した上でそれを文字化する事によって、 「制約・拘束」を強みへ転化できるのではないかとして論を締めた。

それに対し会場からは、研究対象を世界の同時代性の中で理解する必要もあるという指摘や、 日本の院生・研究者が日本において研究するという事と日本人が研究する事は同義ではない (例えば在日コリアン、アイヌ民族)という指摘や、先進国日本の研究者であるという事が制約ではなくバイアスや知的権力性へ転化する恐れ、 また現地の文脈を捉え損ねる恐れ(例えば階級の違い)が指摘された。

文責:鈴木隆洋(同志社大学大学院グローバル・スタディーズ研究科・博士課程)

シンポジウム「土地とイデオロギー:大岩川和正の現代イスラエル研究を起点として」

概要

  • 日時:2012年6月9日(土)12:00開場、12:30開始、18:30終了
  • 会場:明治大学駿河台キャンパス リバティタワー10階1103番教室
  • 主催:イスラーム地域研究東京大学拠点(TIAS)
  • 共催:明治大学文学部地理学専攻、京都大学地域研究統合情報センター(CIAS)地域研究方法論プロジェクト (「地域研究における情報資源の共有化とネットワーク形成による分野融合型方法論の構築」)

  • シンポジウム趣旨
    大岩川和正(おおいわかわ かずまさ)氏は、1959年から逝去する1981年まで、イスラエル入植村に数度にわたって長期滞在し、 調査を行った。だが、大岩川氏の問題意識はユダヤ人入植村内部の社会経済構造に留まらなかった。 大岩川氏は、イスラエルとパレスチナを単一の地域として捉える視点を提示し、現代イスラエル独自の「ネーション」が、 パレスチナ地域でいかに歴史的に形成されてきたかを実証的に明らかにしようとした。 入植村のイデオロギー的意義への関心は、現代イスラエルの再生産体系や 「土地」と「血」を基盤とする民族意識の発展過程を明らかにするためのものであった。

    大岩川氏の周到な現地調査と緻密な分析は、没後31年を経た今でも色あせることなく、私たちに多くのことを語りかける。 では、パレスチナ/イスラエルに関心をもつ現在の私たちは、大岩川氏の研究から何を学び、 今後どのような問題意識を発展させていけばいいのだろうか。

    本シンポジウムでは、3世代に渡る地域研究者、社会学者、地理学者が一堂に会し、大岩川氏の現代イスラエル研究を起点として、 土地とイデオロギーをめぐる問題を議論したい。

「大岩川和正氏の研究」(pdf:415KB)
鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科)

プログラム
第1部
  • 挨拶・趣旨説明:長沢栄治(東京大学教授)
  • 共催者からの挨拶:長岡顯(明治大学教授)
  • 大岩川氏の業績紹介:鈴木啓之(東京大学・院)
第2部
  • 基調講演1  板垣雄三(東京大学名誉教授) 「イスラエル研究のあり方を問う――大岩川和正さんの立脚点をヒントに」(仮題)
  • 基調講演2  児玉昇(龍谷大学名誉教授
  • 質疑応答
第3部(若手による研究発表、発表各15分)
  • 発表1 飛奈裕美(日本学術振興会特別研究員PD)
  • 発表2 吉年誠(一橋大学)
  • 発表3 役重善洋(京都大学・院)
  • 発表4 池田有日子(京都大学)
  • 発表5 今野泰三(大阪市立大学院)
  • 質疑応答
第3部(若手による研究発表、発表各15分)
  • 総合コメント1 早尾貴紀(東京経済大学専任講師)
  • 総合コメント2 臼杵陽(日本女子大学教授)
  • 全体討論・質疑応答
  • 閉会の挨拶  長沢栄治・東京大学教授

報告

写真
質問に応じる板垣先生と児玉先生
第二部の基調講演では、大岩川氏と親交のあった板垣雄三と児玉昇の両氏から、それぞれ、「イスラエル研究のあり方を問う 」、 「イスラエル研究の方向舵を求めて」との表題で話をされた。

板垣氏は、大岩川氏の現代イスラエル研究を、「イスラエル研究」「地理学」といったディシプリンを 超えた問題意識において取り組まれたものと評価され、「イスラエル研究」における「transdisciplinary」の心構えの重要性を指摘された。 そして、その際、根幹となるのは、パレスチナ/イスラエルにおける「特異なコロニアリズム」の 「生成・展開・持続・消滅」にかかわる研究であること、日本においてこの問題を考える上で 「満州国」が大きな意味をもつことなど、重要な問題提起をされた。

続いて、児玉氏は、まず、修正シオニストのイスラエル・エルダドによる議論を紹介しつつ、 シオニズムの多元性とその把握の難しさを指摘された。その上で、特にその経済的側面について、 ご自身のイスラエル滞在時の経験などを交え、パレスチナ人排除のイデオロギーと現実との矛盾について話をされた。 その矛盾の究極的な表現としての「隔離壁」にも言及されるなど、大岩川氏の議論とパレスチナの現状とをつなぐ問題意識を垣間見る講演であった。

質疑応答では、パレスチナ問題の未来構想にまで話が及び、日本人自身の歴史認識や国家観を見直す中で、 パレスチナ/イスラエルの今後のあり方を再考する必要について、両氏それぞれの視点から語られた。

(文責:役重善洋/京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程)

第三部では、パレスチナ/イスラエルに携わる5人の若手研究者による研究報告がおこなわれた。 それぞれの研究者が大岩川氏の現代イスラエル研究を受けて、それに応答する形で出された報告である。

エルサレム都市研究をおこなう飛奈は、エルサレムの都市計画・開発を通じて表れるイスラエルのシオニズム的論理が、 大岩川氏のいう共同体としての「ユダヤ民族」の正統性の確立にかかる問題であるとして考察した。 吉年はパレスチナ経済史の観点から、大岩川氏の提起する「イデオロギーとしての入植村」とその社会の「自己矛盾」に関する議論を考察し、 入植者がパレスチナ人排除へ向かう論理を示した。そして日本におけるシオニズム研究の報告として役重は、 戦間期の矢内原忠雄のシオニズム論を検討し大岩川氏の研究視座と比較することで、 日本人研究者のもつ歴史認識におけるイデオロギー的バイアスの相対化を図った。国際政治を専門とする池田は、 ヨーロッパのユダヤ人問題とパレスチナ問題・中東問題をつなぐ回路の俯瞰的なモデルを提示して、 アメリカやヨーロッパの文脈と関連させてその両者の接合を試みた。最後に、今野の発表は本シンポジウムの根幹に迫るものであり、 今野は大岩川氏の全研究論文を読み返し大岩川氏の関心・方法論・理論的背景などの観点から分解・分析し、 大岩川氏の研究の集大成としての「地域研究論」を再構築しようと努めた。この第三部は、 パレスチナ地域のさまざまな文脈を体系的に捉え地域社会の視点から世界を記述していく大岩川氏の地域研究論が、 後代の研究者に如何に培われているかを示すものとなった。

(文責:塩塚祐太/一橋大学大学院社会学研究科修士課程)

第四部では、早尾貴紀氏と臼杵陽氏からまず総合コメントを話していただいた。 早尾氏からは、この研究会の主旨に即して言うならばイスラエル建国以前から展開してきた入植村を、 大岩川氏の研究に即して再検討するべきではなかったか、という論点と、複数の報告者が使用していた 「植民地主義」という言葉に関して腑分けが必要ではないのか、という論点が提示された。前者に関しては、 ナショナルなものや、「血と土地」などのイデオロギー、さらには政治経済的な要因など建国以前から現在までの ユダヤ人社会形成要素は大きく変遷したが、いずれの段階でも入植村の存在は不変であり、 ここにイスラエルの本質があると見抜いた大岩川氏の視座をどう受け止めるのか、という指摘であった。

これらの論点を引き継ぐ形で、臼杵氏からは大和川氏から引き継ぐべきものとして弁証法的思考法を挙げ、 更にイスラエルにおいてそれまで無視されてきた、1880年代から始まる「第一波アリヤー」の再評価が 90年代ころから始まってきたことなどの変化が指摘された。しかし大岩川氏は、現在のこの再評価を先取するような形で研究をしていた。 こうした研究を可能とした背景には、大岩川氏の議論の進め方が必ず対立するもの、 対になるものから分析していくという戦略をとっていたことにある、と指摘された。 臼杵氏は、こうした思考法によって大岩川氏は社会の矛盾こそがその社会の発展を説明するものであるということを見出し、 入植村や「血と土地」のイデオロギーに注目することになったのではないか、我々はこうした大岩川氏の思考法を学ぶべきではないのか、 とコメントしている。また、板垣氏からの指摘のなかで、 現在のパレスチナ研究と聖書研究があまりにかけ離れているということをどのように考えるのか、 一般市民の問題関心と研究者のそれの間の隔絶をどのように埋めていくのか、というものがあったが、 これらの問題をどう考えていくのか、さらにはパレスチナとイスラエルという二項対立を乗り越える上で アラビア語やヘブライ語を利用することがどの程度有効なのか、ということをもう一度再検討すべきではないかと指摘していた。

このコメントに対して板垣氏からは77年に開いたシンポジウム(<パレスチナ問題を考える>シンポジウム)の想起から、 何百人もの人が参加し、研究者とか一般という区分けや立場の差を超えて討論を重ねることができた当時と、 それがほとんどできない現在の間にある問題は一体何か、これは非常な危機的状況なのではないか、という論点が提示された。 また児玉氏からは現在資料が簡単に手に入るようになった、といわれるが、むしろそこにアクセスできる要件というものが 際立つ結果になってしまっているのではないか、研究者だけでなく広く資料を利用できる環境を整えることがじゅうようではないか、 という指摘がされた。

登壇者からは、今野氏と役重氏から板垣氏の論点に関して、世代間の問題やそれに起因するそれぞれの世代における 「植民地主義」などのイデオロギーへの関心が異なるのではないか、という応答があった。しかし板垣氏からは、 世代の問題ではなく時代の問題としてとらえてほしい、という提案があった。それは、77年の時がよく、今がダメ、 ということではなく、77年当時の人々も、現在の状況はもうわからなくなってしまったのではないかということであった。 その背景には、人や社会全体を騙す技術やその情報を流布させる情報が発達して、「事実」というものが わからなくなってしまっているのではないか、と指摘されている。

最後に長沢氏から閉会の言葉があった。大岩川氏が亡くなられて30年経ったことを回顧し、 故人の志を継ぐということは言うことは易く実行は非常に難しいが、 今回のシンポジウムをひとつの起点としてパレスチナ研究が更に発展するような努力を積み重ねよう、という提案で会を締めくくられた。

(文責:武田祥英/千葉大学大学院 人文社会科学研究科博士後期課程)

シンポジウム「土地とイデオロギー:大岩川和正の現代イスラエル研究を起点として」 第2回準備研究会

概要

  • 日時:2012年4月22日(日) 13時~18時
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所3階大会議室

プログラム
  • 発表1 飛奈裕美(日本学術振興会特別研究員PD、専門はエルサレムの政治と法)
  • 発表2 吉年誠(一橋大学、専門はパレスチナ/イスラエルの土地制度)
  • 発表3 役重善洋(京都大学・院、専門は日本のキリスト教シオニズムと植民政策論)
  • 発表4 池田有日子(京都大学、専門は米国のシオニストとユダヤ人の研究)
  • 発表5 今野泰三(大阪市立大学院、専門は宗教シオニズムと入植地)

報告

本研究会は、来る6月9日「土地とイデオロギー―大岩川和正の現代イスラエル研究を起点として」に向けた第二回準備会として開催された。] 当日は約5時間に渡り、シンポジウムで登壇する若手研究者の発表内容を精査し、 その後シンポジウムの準備や当日進行にかかる事務調整がおこなわれた。全体討論では、 シンポジウムの骨格となる「大岩川和正のおこなった研究」と「土地とイデオロギー」という2つのキーワードと、 各発表者の専門領域の擦り合わせに焦点が置かれ、第一回よりもさらに厳密な討論が行われた。 準備会を重ねる中で、会参加者個々人が自らの研究関心の中にこのシンポジウムを位置づけ、 その開催の意義への理解と関心を深めただけでなく、シンポジウム全体の方向性や内容もより緻密かつ興味深いものになった。 その意味で、本研究会は、本シンポジウムの開催のみならず、シンポジウム開催にいたる過程を踏まえても、 パレスチナ/イスラエル研究の将来を見据える上での貢献は大きいだろう。

塩塚祐太(一橋大学大学院社会学研究科修士課程)