2015年度

2015年度第7回パレスチナ研究班定例研究会

概要

  • 日時:2016年2月23日(火)13:00-18:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階第一会議室

  • ◆報告1:平岡光太郎(同志社大学・研究開発推進機構・研究企画課
                  一神教学際研究センター・特別研究員)
          「現代ユダヤ思想における統治理解について-神権政治を中心に-」

  • ◆報告2:今野泰三(大阪市立大学院都市文化研究センター研究員)
          「入植地問題とパレスチナ/イスラエルの和平」

報告

現代ユダヤ思想における統治理解について―神権政治を中心に―(平岡光太郎)

 平岡氏の報告は、マルティン・ブーバー、ゲルション・ヴァイレル、アヴィエゼル・ラヴィツキーという、それぞれ出自と世代の異なる(しかし、いずれも委任統治下パレスチナないしイスラエルの大学で教鞭をとった)3人の現代ユダヤ人思想家の「神権政治」に関する議論を考察するものであった。その際の焦点は、ユダヤ教の観点から現代イスラエル国家の存在/正統性をどう捉えるかという問題であった。そのための補助線として、中世末期の南欧・地中海世界を生きたイツハク・アバルヴァネルの政治論が導入され、これに対するヴァイレルとラヴィツキーの対極的解釈に対する思想的分析が報告の中心となった。ヴァイレルが、世俗的(あるいは修正主義シオニズム的?)観点から、ハラハー(ユダヤ法)に基づく法的秩序を理想とするアバルヴァネルの議論をメシア的な神権政治論として捉え、現代イスラエル国家の正統性を宗教的に根拠づけることは不可能だとしたのに対し、ラヴィツキーは、アバルヴァネルの政治論の「妥協的」側面に注目し、贖いを未来に待望する宗教的立場からであっても、政治への条件付きの関与は可能だと考えた。ここで報告者は、「カリスマ」的政治指導者による神権政治の現実化を可能とするブーバーの視点を参照することで、人間の支配と神権政治の両立を不可能とする政治思想のヴァリエーションとして、ヴァイレルおよびラヴィツキーの思想をブーバーに対置するというかたちで、世俗対宗教という二項対立とは異なる思想的マッピングの可能性を示された。質疑では、各々の「ユダヤ人思想家」が置かれた政治状況や、そこで想定されていた「国家」の内実の歴史的変化といった側面に関して、多くの疑問や意見が出され、活発な討論が交わされた。報告は、イスラエル政治における宗教勢力(あるいは宗教右派勢力)の台頭という極めて現代的な状況に直結する内容であり、そうした方向においても、領域横断的な議論を今後も継続できればと感じた。

(文責:役重善洋 大学非常勤講師)

入植地問題とパレスチナ/イスラエルの和平(今野泰三)

 今野泰三氏の報告は、いわゆる「入植地問題」を、「狭義の入植地問題」と「広義の入植地問題」に類型化し、先行研究にこの観点から分析を加える興味深いものであった。
 まず今野氏はオスロプロセスへイスラエルを動かした動機と、土地接収強行を含む入植地建設への動機が、現代イスラエルの中でいかにクロスするかという問題提起を行った。
 最初に、第三次中東戦争においてイスラエルがゴラン高原やシナイ半島、ヨルダン川西岸地区とガザ地区を軍事占領したことに端を発するモノとしての「入植地問題」の概要が説明された。その内容としては、国際法違反、パレスチナ人の権利侵害、二国家解決案の阻害要因などが挙げられる。
 他方でこのようなフレーミングは、1967年以前のイスラエル国家とシオニズム運動による入植と土地の接収を等閑視するものであるという視角が紹介され、先述の「入植地問題」を「狭義の入植地問題」とし、こちらを「広義の入植地問題」とする枠組みが提起された。
 両者の先行研究の分析に続き、今野氏は「狭義と広義の入植地問題を結びつける試み」として、第三の枠組みを先行研究の類型化のひとつとして提起した。
 最後にこれらの各類型に分類された研究者たちが、オスロ和平プロセスをいかに評価しているかが示され、それぞれの立場の問題点が今野氏により提起された。順に述べると、まず「狭義派」は1967年以前の等閑視に加え、中東のユダヤ教徒にそのルーツを持つ東方系ユダヤ人ミズラヒームの置かれた立場を無視して、かれらの右傾化ぶりを一方的に責めていると批判された。次に「第三派」だが、とりわけイスラエル人学者に顕著な傾向として、極右ユダヤ人やハマースなどに責を負わせがちであり、イスラエル国家の性質への批判が甘いことが批判された。
 以上に対し今野氏は、一民族一国家を越えるビジョンを提起した、イスラエル・パレスチナの各派の思想の再検討の必要性を指摘した。
 質疑応答では、これらの類型化の有効性を巡る議論や、直近のイスラエル・パレスチナの思想的状況について応答があり、非常に活発な議論が行われた。

(文責:鈴木隆洋 同志社大学大学院)

2015年度第6回パレスチナ研究班定例研究会

概要

  • 日時:2015年11月29日(日)13:00-18:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階第一会議室

  • ◆報告1:小阪裕城(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
          「イスラエル建国直後のアメリカ・ユダヤ人委員会(AJC)の対外活動 1948-1951」(仮)

  • ◆報告2:鈴木啓之(日本学術振興会・特別研究員PD)
          「PLOとヨルダンの同盟:被占領地との関係の新展開、1982~1987年」

報告

報告1:小阪裕城(一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程)
 「イスラエル建国直後のアメリカ・ユダヤ人委員会の対外活動 1948-1951」

 小阪氏は在米ユダヤ人を代表する組織の一つとしてアメリカ・ユダヤ人委員会(American Jewish Committee: AJC)をとりあげ、主に建国前後における委員会とアメリカ政府やイスラエルとの関係について報告された。AJCは1906年に在米ドイツ系ユダヤ人を中心に設立された、アメリカの主流社会への同化路線をとる非シオニスト団体である。彼らは当初より、出身国と現住国(アメリカ)への二重忠誠批判を懸念し、イスラエルへの「帰還」呼びかけに反発を示してきた。ブラウスタインAJC議長は、実際にベングリオンと協議を通じて、イスラエルへの大規模移住を求めないことなどを確認し、1950年に協定を結んでいる。イスラエル建国後にアラブ諸国でのユダヤ人迫害問題が生じると、AJCはエジプトやイラクでの弾圧について、アメリカ国務省に早急な指示を求めるよう要請した。これらはイスラエル・ロビーの活動の萌芽と位置づけられる。本報告はこれらの事象をトランスナショナル・ヒストリーの視点から提示したのが特徴である。質疑では、アメリカと出身国またはイスラエルとの二重国籍が当時可能であったのか、といった質問が出され、イスラエルの諜報機関モサドと、アラブ諸国からのイスラエル移民を支援する組織(モサド・アリヤー・アリフ/ベート)の組織名称の違いなどの指摘が行われた。

報告2:鈴木啓之(日本学術振興会・特別研究員PD)
 「PLOとヨルダンの同盟:被占領地との関係の新展開、1982~1987年」

 鈴木氏の報告は、1985年にPLOとヨルダンのフサイン国王との間で締結された、ヨルダンとパレスチナの同盟関係をめぐるアンマーン合意の意義について、パレスチナの内政とその後の和平交渉との関係で考察したものだった。翌年には調停が停止され反故となったアンマーン合意は、その政治的重要性があまり注目されてこなかった。しかし同合意が破棄された経緯は、PLO内部の党派対立が終息し、第一次インティファーダで統一指導部が形成されるうえで重要な転機となった。また同合意で提示されたPLOとヨルダンの協力の枠組みは、後のマドリード和平会議へと結果的に引き継がれることとなった。本報告では文書集や自伝の記述をたどることで、より詳細にその過程を明らかにした。史料からは、1970年の「黒い九月」事件以後、早い段階からPLO主流派はヨルダンとの関係改善を試みていたこと、PNC外務委員のハーリド・ハサンは将来のパレスチナ国家について、西岸地区とガザ地区に限定されるだろうと考えていたことなどが指摘された。質疑では、同盟関係をイスラエルの唱えるヨルダン・オプションとの関係で捉えるべき、という指摘や、それに関する参考文献、1982年のベイルート撤退以後のPLO内での人の動きなどについて議論が交わされた。

(文責:錦田愛子 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)

2015年度第5回パレスチナ研究班定例研究会

概要

  • 日時:2015年11月18日(水)17:00-19:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階第一会議室
  • 使用言語:英語(通訳なし)

  • 17:00~17:10 趣旨説明:鈴木啓之(日本学術振興会・特別研究員PD)

  • 17:10~17:50 講演:ヨースト・ヒルターマン(Joost Hiltermann)
               (ベルギー国際危機グループ(ICG)中東北アフリカ研究部長)
                報告タイトル:"Israel and Palestine: Heading to a Third Intifada?"

  •  In English


  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究 東京大学拠点(TIAS)
    共催:日本エネルギー経済研究所・中東研究センター

■講師紹介:ヒルターマン氏はInternational Crisis Group (ICG)中東・北アフリカ部門のプログラム・ディレクターです。2002年よりICGでディレクターとして研究、分析、政策提言をされ、それ以前はヒューマン・ライツ・ウォッチの武器部門の事務局長や、パレスチナの人権団体アル=ハックの研究コーディネーターを務めておられました(1980年代)。パレスチナに関してはご著書『Behind the Intifada: Labor and Women's Movements in the Occupied Territories』(1991年)の他、たくさんの論考を書かれています。

報告

 ヨースト・ヒルターマン(Dr. Joost Hiltermann)氏の報告は、第一次インティファーダ(1987年に発生)、第二次インティファーダ(2000年に発生)との比較のもとで、2015年現在のヨルダン川西岸地区およびガザ地区で見られる蜂起の状況に分析を加える興味深いものであった。
 まず、ヒルターマン氏は、第一次インティファーダに対して、発生の理由(causes)と直接の理由(proximate causes)に分類したうえで、前者が占領そのものであると指摘する。そのうえで、後者ではイツハク・ラビン国防相のもとで1985年に開始された鉄拳政策(iron fist policy)の影響、および入植地の拡大を挙げた。この第一次インティファーダでは、①偶発的に始まった点、②多くの人々が参加した点、③非暴力の蜂起であった点、④指導部が形成された点、の4点を特徴として挙げた。特に最後の点は、氏が偶然にも研究を続けていた労働組合と女性団体の関係者が深く関わっており、この点を初著のBehind the Intifadaにまとめている。氏の言葉を借りれば、抵抗のインフラ(infrastructure of resistance)が存在した点が、第一次インティファーダの展開では重要であった。
 一方で、第二次インティファーダの直接の理由として、オスロ・プロセスの行き詰まり、キャンプ・デーヴィッド会談の決裂、アリエル・シャロンの神殿の丘訪問の3点を挙げた。そして、この蜂起に関しては、①偶発的ではなかった点(トップダウン型の組織活動があった点)、②暴力が使用された点が指摘された。この背景として、氏は自身が第一次インティファーダの背景として指摘した抵抗のインフラが、自治の開始とともにPLOによって支配の道具に変えられ、機能しなくなっていた点などを挙げた。
 最後に、現状の西岸・ガザの蜂起状態について、その直接の理由として、パレスチナ政治におけるリーダーの時代の終焉(政治的真空化)、パレスチナ社会の状況悪化、ユダヤ暦の祝日とイスラームの祝日が重なり、エルサレム旧市街での衝突が頻発した点を挙げた。そのうえで、①いくつかの偶然に生じたグループが観察され、②暴力の使用を限定する動きがあることを指摘し、ソーシャル・メディアを利用した活動が見られる点にも言及がなされた。しかし、ヒルターマン氏は、現在の蜂起が継続するか否かについては2つの点で懐疑的であると述べる。つまり、指導部と抵抗のインフラの双方が存在しないため、今回の蜂起は長期化しないとの分析を述べた。そのうえで、イスラエルとパレスチナの両者の力関係があまりに不均衡であること、さらにイスラエルがパレスチナ人の指導者を逮捕や拘禁などで排除していること、そして両者をむすぶ「誠実な仲介者」が存在しないことから、将来の見通しは厳しく、数年以内にガザ地区に対する新たな戦争の可能性も否定できないと指摘した。
  質疑応答では、第一次インティファーダにおけるハマースの評価、直近のイスラエル選挙の影響、エジプトのクーデターの影響、入植者の暴力に対するイスラエルの対応などについて応答があり、非常に活発な議論が行われた。

(文責:鈴木啓之 日本学術振興会 特別研究員PD)

2015年度第4回パレスチナ研究班定例研究会

概要

報告

 アリー・クレイボ氏(Ali Qleibo, al-Quds University)による報告は、カナーン人の豊穣神バアル信仰や女神アシーラトへの信仰が、形を変えつつ現在のパレスチナにおける聖者信仰などに息づいていることを指摘する興味深いものであった。
 氏の報告は「アブラハムの木」といわれる古い木の物語から始まる。氏はこうした聖人にまつわる場所や廟が、本来的にはカナーン人の頃からの連綿たる信仰の「地層」のうえに成り立っていると力説したうえで、パレスチナにおいて石、木、洞窟、湧き水などが聖なるものとして受け継がれてきたことを写真を交えながら紹介した。例えば農村部の住宅の構造として、洞窟の近くに家屋が建てられ、たとえ建て増しをする場合でも洞窟を壊すことがない点、ベツレヘムのミルク・グロット教会に代表される洞窟のある教会や神聖なものとされる巨石が存在する点、そしてパンへの敬意などが指摘され、これらがカナーン人の信仰の名残であると提起した。特に氏が指摘したのが、パレスチナのベツレヘム周辺で家屋に掲げられる聖ゲオルギオス(通称「アル=ハディル」)とバアルの連続性であり、竜退治の伝説に豊穣神としての干ばつや水害と闘う姿が認められるという。また氏は、現在のパレスチナの農村部で、スーフィー信仰が廃れている現状を述べ、パレスチナ人自身によって聖者廟などの重要性が忘れられている現状を訴えた。
 この報告に対し、エルサレムで行われていた最大の聖者祭であるナビー・ムーサーの祭りの現状や、エルサレム周辺の聖者廟を持つ村の状況、またこうした豊かな信仰体系をまとめた博物館の有無などが質問された。応答の中でクレイボ氏は、現状においてパレスチナ暫定自治政府はこうした歴史的な多様性を裏付けるようなものに関心を払わず、また歴史の語りがナクバ(1948年のパレスチナ人の故郷喪失)やイスラーム黎明期以前にさかのぼらない点に批判的に言及した。

(文責:鈴木啓之 日本学術振興会 特別研究員PD)

Rethinking Jerusalem as the Crossroads of the 'East' and 'West'

in NIHU Program for Islamic Area Studies 5th Interntional Conference, Tokyo, 2015 "New Horizons in Islamic Area Studies: Asian Perspectives and Global Dynamics"

概要

  • 日時:2015年9月11日(金)16:30~18:30
    Date: September 11: Session 2-2(on Jerusalem)

  • 会場:上智大学四谷キャンパス
    Venue: Sophia University, Yotsuya Campus, Tokyo, Japan

  • 使用言語:英語(通訳なし)
    Language: English

  • 参加ご希望の場合こちらのサイトから事前の参加登録が必要です。
    prior registration is required for participation from this link

  •  
  • プログラム Program
    1. Session 2-2
      Rethinking Jerusalem as the Crossroads of the 'East' and 'West'

      ■Convenor : Akira Usuki (Professor, Japan Women’s University, Japan)

      ■Speakers
      • Ali Qleibo (Professor, Al-Quds University, Palestine)
      "El-Khader /Mar Jiries: The Triumph of Order over Chaos"

      • MiJung Hong (Assistant Professor, DanKook University, Korea)
      "Palestine Mandate and Zionists Project in the British Strategy of the Middle East"

      • Nur Masalha (Professor, St. Mary’s University, the UK)
      "“Facts on the Ground”: Israeli Biblical Archaeology and the Palestinian Heritage of al-Quds (Jerusalem)"

      • Yoshihiro Yakushige (Research Fellow, Osaka City University, Japan)
      "Uchimura Kanzo's Perception of Nations and Jerusalem"

      ■Discussants
      Eiji Nagasawa (Professor, University of Tokyo, Japan)
      Aiko Nishikida (Associate Professor, Tokyo University of Foreign Studies, Japan)
      詳しくはこちら専用サイトを参照(for more detail, visit conference's site)

報告

 本研究会は、NIHUプログラム「イスラーム地域研究」の上智拠点と早稲田拠点が主催する国際集会「New Horizons in Islamic Area Studies: Asian Perspective and Global Dynamics」のセッションのひとつ「Rethinking Jerusalem as the Crossroads of the 'East' and 'West'」として開催された。海外からは三名のゲストスピーカーが招聘され、研究会メンバー1名も報告を行い、パレスチナ研究班の研究分担者である臼杵が司会を、長沢と錦田コメンテーターを務めた。本セッションは、第一次世界大戦後のエルサレムでの「失われつつある共生」についてとりあげるもので、その過程での考古学の利用や、エルサレムの非アラブ化・ユダヤ化について考えた。
 アリー・クレイボ氏は、パレスチナにかつて存在した共生のあり方について報告された。パレスチナ各地にある聖地や聖者信仰のいくつかがカナン時代の神に由来し、キリスト教徒とイスラーム教徒双方の慣習の中で受け継がれて来たことが説明された。これらは民族誌や考古学、文献学の記録に基づき明らかにすることができる。聖ジョージ(エル=ハデル)信仰はその代表例であり、雨をもたらす豊穣の神バアルと同一視されることもあった。ある聖地が特定の宗教に帰属すると排他的に主張されがちなパレスチナ/イスラエルにおいて、聖ジョージのように複数集団から信仰される対象は例外的であり、重要な存在であることが指摘された。
 ミジョン・ホン氏は、英国委任統治期に共生が失われる過程の歴史的展開について報告された。イギリスにとってパレスチナは天然資源の通過地点としても戦略的要地であり、そこを支配する上で、イギリス政府は、多数派のアラブではなくユダヤ系シオニストの存在を利用した。エルサレムのムフティーであったアミーン・アル=フセイニーを中心とするアラブの独立への主張は、イギリスが1920年代から30年代にかけて発行した複数の文書により否定された。こうした当時のイギリスの動きが、イスラエル建国を促し、パレスチナから主権を奪ったものと報告された。
 ヌール・マサールハー氏は、イスラエルがエルサレムの非アラブ化を進めるために用いる聖書考古学の役割について報告された。1967年戦争(第三次中東戦争)で占領した東エルサレムで、イスラエルはその植民主義を支える論拠として、事実(facts on the ground)を作り出してきた。それはシオニズムの国家主義的エトスを正統化するために必要なものであり、エルサレムの内外で建設が進められる入植地区の拡大に資するものである。ベンヤミン・マザールを筆頭とする聖書考古学者らによる「発見」は、アラビア語を排して聖書にちなんだ地名への変更や、歴史的に根拠の薄いダビデの塔の建設などに貢献してきた。他方で、マガーリベ地区やマミラ墓地などはパレスチナの史跡は、イスラエル側によるブルドーザーでの破壊が続く様子が報告された。
 役重善洋氏は、日本における第一世代のプロテスタントであり、キリスト教シオニズム の主唱者であった内村鑑三以降の思想とりあげた。彼はアメリカのキリスト教原理主義の影響を受けながら、日本で無教会主義運動を立ち上げた。彼は大戦期に入った日本の帝国主義と軍国主義を批判しながらも、シオニズムのもつ入植的性格は看過していた。彼の弟子の矢内原忠雄はパレスチナへ旅行し、シオニズムによる入植をむしろ理想と位置づけた。日本政府の軍拡路線には反対したものの、台湾等への移民はむしろ経済発展を促すと肯定した。報告では他にも、「幕屋」を立ち上げた手島郁郎などの例をとりあげ、シオニズム運動との関係や、帝国主義・植民地主義に関連した思想的比較が行われた。
全報告に対しては、長沢および錦田がそれぞれに短いコメントをして、その後で活発な質疑が行われた。

(文責:錦田愛子 東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所准教授)

2015年度第3回パレスチナ研究班定例研究会
/ガザ攻撃1周年・映画とシンポジウムの集い【ガザは今どうなっているのか】

概要

  • 日時:2015年7月20日(月) 13:00~18:00
  • 会場:東京大学経済学部 研究科棟 第1教室

  • プログラム
    1. 13:00 【映画上映】最新作「ガザ攻撃 2014年夏」(監督・土井敏邦/124分)
    2. 15:30 【シンポジウム】

    3. <一部> ガザの現状報告  
    4. 報告1:手島正之(パレスチナ子どものキャンペーン)「ガザの現状」
    5. 報告2:金子由佳(日本国際ボランティアセンター)「ガザ・パレスチナ、NGOとしてできること」
    6. 報告3:ラジ・スラーニ(パレスチナ人権センター代表)(映像出演)

    7. <二部> 解説(中東情勢とパレスチナ・イスラエル)
    8. 解説1:臼杵陽(日本女子大学)「シリア、イラク情勢のパレスチナ・イスラエルへの影響」
    9. 解説2:錦田愛子(東京外国語大学)「ガザ攻撃後のパレスチナとイスラエルの動向」

    10. <三部> 討論「ガザに私たちは何ができるのか」
    11. 司会:土井敏邦

    12. <四部> 質疑応答

報告

 2014年夏のイスラエルによるガザ地区攻撃をめぐって、映像資料とその解説を通じて、パレスチナ問題の現在を考える議論が行われた。映像資料に関して土井監督から説明があり、現地NGOの二団体の活動報告が手島氏と金子氏によって行われ、研究者の立場から臼杵陽氏がシリア・イラク情勢との関係、錦田氏がイスラエルの国内情勢などについて解説した。多数の参加者があり、活発な質疑・議論が行われた。

(文責:長沢栄治)

2015年度第2回パレスチナ研究班定例研究会

概要

  • 日時:2015年6月27日(土)13:00-18:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階第一会議室
  • 使用言語:英語(通訳なし)
  • 報告
    1. 13:00‐15:00 エフラート・ベン=ゼエヴ(Efrat Ben-Ze'ev)(関西学院大学客員講師)
                  "Why do maps matter? The British Mandate Cartography of
                   Palestine"

    2. 15:15‐17:15 鈴木隆洋(同志社大学グローバルスタディーズ研究科博士後期課程)
                   "The Bantustan system: Pass Laws, Labour Reservoir,
                   Whiteness"

      総合討論(17:15~18:00)

    3. *ベン=ゼエヴ氏はイスラエルのルピン学術センター行動科学学部での講師が本務の
        社会人類学者で、ご著書に『Remembering Palestine in 1948: Beyond National
        Narratives』(Cambridge University Press, 2011)があります。

      For English...

報告

 エフラート・ベン=ゼエヴ(Efrat Ben-Ze’ev、関西学院大学客員講師)氏による第一の報告は、同氏の著書の内容をもとにしたものである。報告では、ある土地の地図に記載されるもの/されないものによって、ある特定の風景を表象することについて、具体的には英国委任統治政府がパレスチナの土地をどのような意図で地図に示したのかを、地図に記載されている項目などから考察した。また、そうした様々な地図がどう活用されたのかについても言及した。そして、こうした地図を用いることで、シオニズムによるユダヤ人国家の建設が「奇跡的な偶然」によるものではなく用意周到に進められていたことを1930年代に地図作成に関わったユダヤ人からの聞き取りから明らかにした。さらには、アラブの指導者たちが地図を利用するのは1940年代に入ってからで、ユダヤ人勢力に遅れをとったことがその後の歴史を決定づけたのだとも述べた。質疑応答では、ディアスポラのユダヤ人にたいしてパレスチナの魅力を伝えるツールとしての地図利用の有無や、現在のオスロ合意以降の分離政策における地図利用についてなど、各質問者の専門に引きつけた興味深い質問が多数あった。
 鈴木隆洋(同志社大学グローバルスタディーズ研究科博士後期課程)氏の報告は、自身の博士論文で扱うイスラエルの経済政策と比較するものとしての南アフリカのバントゥースタン政策に関して、パス法、労働力、白人主義という項目ごとにその内容を歴史的に概観したものであった。
 今回の報告は自身も言及した通り、論文の準備段階のものであり、特に論点がはっきり提示されている訳ではなかった。そのため質疑応答では、鈴木氏の博士論文への展望として、イスラエルと南アフリカを比較対象とする意義を問うもの、これをふまえた上での今後の方向性について確認するものが多数あった。

(文責:細田和江)

『オスロ合意から20年』合評会

概要

  • 日時:2015年5月24日(日)14:00ー17:20
  • 会場:東京大学本郷キャンパス・東洋文化研究所 3階第一会議室
  •     〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
        最寄駅:東京メトロ丸ノ内線/都営大江戸線(4番出口) 本郷三丁目駅
        東大・懐徳門から入って、緑の小道を抜けた右手、正面玄関に唐獅子像のある建物。


    イスラーム地域研究東京大学拠点では、以下の論集を出版いたしました。

    今野泰三・鶴見太郎・武田祥英編
    『オスロ合意から20年―パレスチナ/イスラエルの変容と課題』
    (NIHUイスラーム地域研究東京大学拠点、2015年)

    市販されない拠点出版物(入手方法後記)ですが、
    オスロ合意やその後の体制をさまざまな側面について、
    各執筆者によるものを含むこれまでの諸研究をまとめ、
    今後の研究課題を提起した論集となっています。
    今後、これをさらに本格的な共同研究にまとめていくにあたって、
    さまざまなご批判やご提案をいただきたいと考えております。

    つきましては、以下の合評会を開催いたしますので、
    みなさま万障お繰り合わせのうえご参加ください。

    <評者>
    立山良司氏(防衛大学校名誉教授、日本エネルギー経済研究所客員研究員)
    臼杵陽氏(日本女子大学教授)

    <主催>NIHUイスラーム地域研究東京大学拠点

    <事前申し込み>不要