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2023年度の研究会

「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」 2023年度第2回研究会(公開シンポジウム)

概要

テーマ オスロ合意から30年:最終的地位の現在と新たな課題
日時 2023年9月30日(土)10:00–18:00
場所 東京大学駒場キャンパスアドミニストレーション棟3階学際交流ホール,オンライン会議室

10:00~10:10 開会の辞
鈴木啓之(AA研共同研究員・東京大学)

10:10~12:00 第一パネル:オスロ合意とは何だったのか
錦田愛子(AA研共同研究員・慶應義塾大学)
江﨑智絵(AA研共同研究員・防衛大学校)
鶴見太郎(AA研共同研究員・東京大学)
浜中新吾(AA研共同研究員・龍谷大学)

コメンテーター:立山良司(AA研共同研究員)
司会:菅瀬晶子(AA研共同研究員・国立民族学博物館)

13:00~14:50 第二パネル:パレスチナ問題からの再考
今野泰三(AA研共同研究員・中京大学)
田浪亜央江(AA研共同研究員・広島市立大学)
高橋宗瑠(AA研共同研究員・大阪女学院大学)
金城美幸(AA研共同研究員・立命館大学)

コメンテーター:奈良本英佑(法政大学)
司会:南部真喜子(AA研共同研究員・東京外国語大学)

15:10~16:30 第三パネル:忘却された現実
児玉恵美(AA研共同研究員・東京外国語大学)
細田和江(AA研共同研究員・東京外国語大学)
役重善洋(AA研共同研究員・同志社大学)
山本健介(AA研共同研究員・静岡県立大学)

コメンテーター:臼杵陽(AA研共同研究員・日本女子大学)
司会:後藤絵美(AA研)

17:10~17:50 総合討論

17:50~18:00 閉会の辞
後藤絵美(AA研)
18:00- 研究メンバー会議(事務連絡等)


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主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」(2022~24年度)
  パレスチナ/イスラエル研究会   東京大学中東地域研究センター(UTCMES)

報告

 

「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」 2023年度第1回研究会

概要

テーマ にじむ境界線
日時 2023年8月8日(火)15:00–19:00
場所 東京大学駒場キャンパス18号館4階セミナールーム,オンライン会議室

15:00-15:50 金城美幸(AA研共同研究員・立命館大学)
「パレスチナ難民の記憶の共有過程と難民帰還権:被占領地に暮らすリフター村出身者を中心に」
16:00-16:50 役重善洋(AA研共同研究員・同志社大学)
「被占領西岸地区およびエルサレムにおけるイスラエルの考古学発掘調査について」
17:00-17:40 全体討議
18:00- 研究メンバー会議(事務連絡等)


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主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」(2022~24年度)
  パレスチナ/イスラエル研究会

報告

 金城の報告は「記憶」をキーワードに、1970年代から発展してきた研究潮流を整理したうえで、ヌール・マサールハによる「先住民的知識」という視点を軸に、リフター村の出身者による記憶をめぐる活動を分析するものだった。リフター村はエルサレム旧市街の北西方向に広大な土地を有する村だったが、ナクバによって破壊され、現在では55軒の無人化された住居が残されている。報告では村落史の特徴として、①社会関係の土台としての村(親族集団ハムーラなどによる結束)、②村の一体性、③村の持つ重層的な歴史が指摘された。最後にリフターの村民たちが村への帰還実践(訪問)を日常的に行っていることが示され、離散第一世代にとっては苦痛を伴う行為でもあった帰還が、次世代によって知識の保持と共有の取り組みとして継続されていることが明らかにされた。そのうえで、「帰還」が実生活のレベルで取り組まれているリフターの事例は、和平交渉の最終的地位として扱われる難民帰還権の議論に重要な視座を加えるだろうと結んだ。
 質疑応答ではリフター村のナクバ以前のパレスチナ社会での位置づけ、「リフターは入り口」という言葉の含意、法廷闘争についての詳細、村落史における女性の扱い、帰属意識の世代間の差違について質問があった。これに対して報告者は、一体性を強調する村落史では社会階層について不問に付す傾向にあること、「入り口」は地理的な意味ではなく祖国パレスチナの解放との関係から理解すべきと推測されること、イスラエル司法での法廷闘争ではリフター村民が「自然保護区」に指定されている点を利用していたこと、数は少ないながら女性による村落史の発表も行われていること、帰還実践においては世代間の差違が確かに観察されることを応答で述べた。

 役重の報告はエルサレムのシルワーン村と西岸地区のマサーフェル・ヤッタ地区を事例に、旧約学とパレスチナ問題の連関を論じるものだった。特にパレスチナにおける旧約学/聖書学の系譜をエドワード・ロビンソンによる1838年のシロアム・トンネルの発見から1990年代と2000年代に入ってからのシルワーン村でのイール・ダヴィド基金による活動まで整理し、近年においてはむしろ旧約学/聖書学の発展によって過去の通説が否定される事例もあることが指摘された。また、ヘブロン郊外のマサーフェル・ヤッタ地区では、最高裁の最終的な判定により住民の大量追放の可能性が生じている点に論及があった。特に地区のなかでも規模の大きいアル=トゥワーニー村では、ビザンツ時代の遺構があったことで開発地域の限定や入植者の立ち入りが行われていることが指摘された。そのうえで、イスラエルの入植政策を西側世界が過小評価する認識枠組みの問題に、こうした聖書解釈と連動する歴史認識があるのではないかと問いかけた。
 質疑応答では、シルワーンでの住宅壁画の書き手は誰なのか、遺跡の保護・管理主体として国家が機能することはないのか、遺跡の存在を理由に開発差し止めを申し立てることができる主体の範囲(クリスチャンやイスラム教徒は申し立てができないのか)、報告から導かれる結論部と旧約学/聖書学との関係性はどこにあるのか、最高裁の判定が覆った背景とは何かについて質問があった。報告者は、シルワーンの住宅壁画は住民側のアーティストが抵抗の文脈から作成したこと、C地区の特殊性(イスラエルの法律が優越する状況)、聖書に基づいた理解が西側世界の歴史認識をゆがめている可能性、最高裁の最初の判断は追放命令そのものへの判断ではなく暫定的な差し止めであった点を応答で明らかにした。
 いずれの報告も聴衆の関心を喚起し、活発な議論が交わされた。

鈴木啓之(東京大学中東地域研究センター)

2022年度の研究会

関西パレスチナ研究会 2022年度第3回研究会

概要:講演は英語で実施されます

Research Seminar by Kansai Society for Palestine Studies
Date and Time Fri. March 24, 3:30pm-7pm (Japan)/8:30am-12pm (Palestine)
Venue Online via Zoom
Registration from HERE

Program
Presentation:
(1) Magid Shihade (Vice President for Academic Affairs at Dar Al Kalima University, Bethlehem)
Settler colonialism in Palestine in a comparative perspective

(2) Kei Saido (Research Student at Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University)
Palestinians in Israel and the Future Vision Documents: Searching for a way to binationalism

Commentator: Yoshihiro Yakushige (Adjunct Researcher at the Institute for Study of Humanities and Social Sciences, Doshisha University)


Organized by
Kansai Society for Palestine Studies
Grants-in-Aid for Scientific Research (B) “Formation of New Networks and Liberation Conceptions among Palestinians in the Post-Oslo Era” (Principal Researcher: Taizo Imano)

Co-organized by
Research Group on Palestine/Israel

Contact
palestine.kansai[at]gmail.com ([at]は@に変えてください)

主催:
関西パレスチナ研究会
科研費基盤研究(B)「ポスト・オスロ合意期におけるパレスチナ人の新しいネットワークと解放構想の形成過程」 (研究代表者:今野泰三 課題番号:22H03831)

共催:
パレスチナ/イスラエル研究会

報告


「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」 2022年度第4回研究会

概要

テーマ 変化の諸相
日時 2023年2月6日(月)15:00–19:00
場所 本郷サテライト5階セミナールーム,オンライン会議室

15:00-15:50 細田和江(AA研共同研究員・東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)
「イスラエルのパレスチナ人作家と翻訳」
16:00-16:50 浜中新吾(AA研共同研究員・龍谷大学)
「イスラエル社会の分断、政策選好、および民主主義の後退」
17:00-17:40 全体討議
18:00- 研究メンバー会議(事務連絡等)


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主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」(2022~24年度)
  パレスチナ/イスラエル研究会

報告

 細田和江氏(AA研共同研究員・東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所)は、イスラエルにおけるミズラヒームやパレスチナ・アラブ人の文学活動について報告し、特にアラビア語による執筆の拡大とヘブライ語への翻訳の増加というここ10年の動向を論じた。
近年、ヘブライ文学に代わってイスラエル文学という枠組みが受け入れられることで、イスラエルでアラブ文学の翻訳が流通するようになり、パレスチナ・アラブ人がヘブライ語ではなく母語で執筆した作品が翻訳によって書店に並ぶようになった。アラビア語の作品をヘブライ語に自己翻訳する事例やアラビア語とヘブライ語を組み合わせて創作する試みもあり、これらの動向はイスラエル文化の脱シオニズム化と並行するものとして捉えられる。
質疑応答では文学の動向とイスラエル社会の変化の関係性、読み手の層や社会の需要に関する議論がなされた。
 浜中新吾氏(AA研共同研究員・龍谷大学)は、イスラエルにおける近年のエスノナショナルな政治の傾向と民主主義の機能不全について、有権者の政策選好を分析することでその原因を論じた。
同氏は2022年9月14日から10月2日にかけて、ユダヤ人有権者の政策選好を把握するためのコンジョイント実験をウェブ上で行った。その結果、親ネタニヤフ派の有権者は反民主的・民族的な政策選好を持っていることが改めて確認できた。また、イスラエルでは民主主義国家とユダヤ人国家という基本的なヴィジョンをめぐって深刻な二極化が起きており、ユダヤ人有権者はユダヤ人国家を目指す方向に傾いていることがデータ上で明らかになった。ただし、本調査の回答者にはアラブ系市民が含まれておらず、実験を用いていない他の実証研究では電話や対面調査によってアラブ系市民にアプローチしている。
質疑応答ではアイデンティティ投票やイスラエル政治の権威主義的な傾向について議論がなされた。

溝川貴己(早稲田大学文学部中東・イスラーム研究コース)

「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」 2022年度第3回研究会

概要

テーマ 枠組みの再検討
日時 2023年1月20日(金)14:00–19:00
場所 本郷サテライト5階セミナールーム,オンライン会議室

14:00–14:50 錦田愛子(AA研共同研究員,慶應義塾大学)
「オスロ合意による体制構築の課題:主権と治安管理をめぐるトレードオフ」
15:00–15:50 山本健介(AA研共同研究員,静岡県立大学)
「オスロ合意と『イスラエルのイスラーム運動』:国家との関係と民族意識」(仮)
16:00–16:50 鶴見太郎(AA研共同研究員,東京大学)
「シオニスト/イスラエルの対アラブ観の変遷」
17:00–17:40 全体討議
18:00– 研究メンバー会議(事務連絡等)


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主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」(2022~24年度)
  パレスチナ/イスラエル研究会

報告

 錦田報告では、オスロ合意によってもたらされた枠組みがパレスチナ問題に置いてどのような影響を及ぼしたのかについて発表された。はじめに、イスラエルパレスチナ紛争におけるオスロ合意の意義と残された課題について明示したうえで、オスロ合意が生み出した新たな問題には、パレスチナの主権の制限が厳しくなったことにくわえて、自治政府の役割がイスラエルの下部組織へと変化してしまったことを挙げた。
 山本報告では、オスロ合意で残された課題とイスラーム運動の位置づけが取り上げられた。はじめに、オスロ合意に対する48年パレスチナ人の期待観と要求について示したうえで、ナクサ以降の宗教復興からイスラーム運動が形成され、その目標について明示した。クネセト選挙以降にイスラーム運動は「南部潮流」と「北部潮流」に分岐していく過程を踏まえて、パレスチナ人の民族意識が、イスラエルの政治的、社会的制度とは離れてしまっていると示した。
 鶴見報告では、シオニストがどのようにアラブを捉え、対峙していたのかについて、個人に焦点をあてて分析がなされた。初めに、アラブ観の主な要素には、「危険」「憧れ」「変化」といった三つの要素を説明し、対アラブ観についての話では、アラブ人とどのように対峙するかについては、イスラエル内外のアラブ人を分けて対応する立場、アラブ人を域外に移送しようとする立場、アラブ人と二民族国家をつくろうとする立場をそれぞれ出しながら、シオニストの政治、宗教、人口構成という事情を踏まえて説明した。
 いずれの報告もオスロ合意による法制度や認識の変化を扱い、活発な質疑応答が行われた。

中本美羽(日本女子大学・文学部史学科)

関西パレスチナ研究会 2022年度第2回研究会

概要

日時 2023年1月14日(土)13:00–17:30
場所 大阪女学院大学2階演習室

13:00~13:20 挨拶・自己紹介
13:20~14:20 研究報告 役重善洋氏(同志社大学人文科学研究所嘱託研究員)
「シオニズムと聖書考古学~エルサレムおよびマサーフェルヤッタを訪ねて」
(休憩10分)
14:30~15:30 会議参加報告 金城美幸氏(立命館大学生存学研究センタープロジェクト研究員)
「Kairos PalestineおよびGlobal Kairos for Justice国際会議に参加して」
15:30~15:45 コメント 今野泰三氏(中京大学准教授)
15:45~16:45 質疑応答
16:45~17:15 関西パレスチナ研究会運営会議


申し込みフォーム

主催:関西パレスチナ研究会  palestine.kansai[at]gmail.com ([at]は@に変えてください)
   (研究会ブログ:http://kansai-palestinestudies.blogspot.jp/

共催:科研費基盤研究(B)「ポスト・オスロ合意期におけるパレスチナ人の新しいネットワークと解放構想の形成過程」 (研究代表者:今野泰三 課題番号:22H03831)
  パレスチナ/イスラエル研究会

報告


「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」 2022年度第2回研究会

概要

テーマ 最終的地位の現在
日時 2022年10月15日(土)14:00–19:00
場所 本郷サテライト,オンライン会議室

14:00–14:50 今野泰三(AA研共同研究員・中京大学)
「ポスト・オスロ合意期における植民地主義研究の再評価と進展」
15:00–15:50 南部真喜子(AA研共同研究員・東京外国語大学)
「エルサレムにおけるオスロ合意後の市民権と生活空間」
16:00–16:50 児玉恵美(AA研共同研究員・東京外国語大学)
「レバノンにおけるパレスチナ難民帰還権への意識」
17:00–17:40 全体討議
18:00– 研究メンバー会議(事務連絡等)


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主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」(2022~24年度)
  パレスチナ/イスラエル研究会

報告

 今野泰三氏(AA研共同研究員・中京大学)の報告では、パレスチナ/イスラエル研究における植民地主義と入植者植民地主義の概念及び分析枠組みの意義と課題を論じることが目的とされた。はじめに、パレスチナ人の入植地問題と植民地主義概念を論じた先行研究の内容と課題を整理し、入植者植民地主義概念の意義が、パレスチナ人が行ってきた反植民地主義研究と帝国主義論から展開してきた植民地主義研究を架橋するところにあると述べた。次に、同概念の幾つかの課題を示した上で、被植民者を対象とした様々なレベルからの分析が必要だと指摘した。最後に、ベドウィンを対象とする報告者の今後の研究方針が示された。
 質疑応答では、入植者植民地主義の位置付け、ジェンダーの視点、ベドウィンに着目する意義などの議論が提起された。

 児玉恵美氏(AA研共同研究員・東京外国語大学)の報告では、レバノン国内のパレスチナ難民の境遇を、シャーティーラー難民キャンプの変容から論じることが目的とされた。その中で、先行研究を整理した上で、現地調査におけるパレスチナ難民の語りから見えてきた難民キャンプへの愛着、殉難者墓地に対するパレスチナ難民の認識・利用のあり方から、同キャンプにおける政治的暴力が持続していることを指摘した。
 質疑応答では、聞き取りの対象者の選定方法、殉難者墓地の存続する背景やパレスチナ難民への働きかけ、死者の語りのあり方などが活発に議論された。

浪内紫雲(東京外国語大学大学院修士課程)

「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」 2022年度第1回研究会

概要

テーマ 問い直されるオスロ合意の前提
日時 2022年8月5日(金)14:00–19:00
場所 本郷サテライト,オンライン会議室

14:00–14:50 鈴木啓之(AA研共同研究員・東京大学)
「30年を迎えるオスロ体制と諸研究の課題」
15:00–15:50 江﨑智絵(AA研共同研究員・防衛大学校)
「中東国際関係にみるオスロ合意以降の変容」
16:00–16:50 田浪亜央江(AA研共同研究員・広島市立大学)
「抵抗と平和構築のあいだ オスロ合意後のパレスチナの演劇活動への視点」
17:00–17:40 全体討議
18:00– 研究メンバー会議(事務連絡等)

主催:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同利用・共同研究課題「パレスチナ/イスラエル紛争の変容」(2022~24年度)
  パレスチナ/イスラエル研究会

報告

 鈴木啓之氏(AA研共同研究員・東京大学)の報告では、はじめにオスロ合意とオスロ体制を研究する目的が説明され、オスロ合意がパレスチナ問題の研究動向の転換点であり、一つの時代区分としての役割を担っている点、またオスロ・プロセスが批判対象となっている点が研究対象としての重要性を際立たせていると指摘がなされた。また、オスロ・プロセス、オスロ体制についての研究の動向と課題点、委任統治期研究をはじめ広範な分野からのパレスチナ/イスラエル研究の現状が示された。
 質疑応答では、オスロ体制という言葉が示す意味合い、変容する主体と研究者の視点の変化の認識について議論が提起された。

 江﨑智絵氏(AA研共同研究員・防衛大学校)の報告は、国際関係論的視点からオスロ体制に関わるアクターや国家間関係の変容を問い直すことを目的とした。オスロ体制は国家主体中心の地域的安全保障体制であり、外的要因や中東諸国の内部変化からの影響により変容してきたことが示された。非国家主体の重要性、超国家的な共同体意識とその担い手を考察したうえで、新たな地域的安全保障体制の構築を必要とするイスラエルとアラブ諸国との関係正常化が進んでいるという指摘がなされた。
 質疑応答では、ネゲブ・フォーラムの実効性、地域安全保障における非国家主体の位置付けについて等活発な議論が交わされた。

 田浪亜央江氏(AA研共同研究員・広島市立大学)の報告では、パレスチナにおける演劇活動の視点から、オスロ体制が形成したパレスチナ社会に対する考察が行われた。占領に対する抵抗に加え、国際社会が規定する平和構築への抵抗を示す表現や演劇関係者の発言に注目するという視点が示された。また、パレスチナの社会内部のマイノリティの抑圧を映し出す演劇は、パレスチナの大衆的な支持を得ているわけではないとも指摘された。
 質疑応答では、インティファーダを経験した世代と現在の若年層の世代間のギャップやパレスチナ社会のユースムーブメントと演劇の関連性について幅広い視点からの議論が行われた。

虎熊 歩(早稲田大学大学院修士課程)

関西パレスチナ研究会 2022年度第1回研究会

概要

関西パレスチナ研究会の2022年度第1回研究会では、今年2月にご著書The Fragmentation of Palestine: Identity and Isolation since the Second Intifada. (Tauris Academic Studies)を刊行されたジョシュア・リカードさんに、パレスチナのヨルダン川西岸地区北部の都市ナーブルスを中心としたパレスチナ人コミュニティにおける社会的分断についてご報告いただきます。

著書紹介:https://www.bloomsbury.com/uk/fragmentation-of-palestine-9781784535872/

多くの皆様のご参加をお待ちしています。

日時:2022年5月28日(土)14:00~17:30
形式:対面とオンライン(Zoom)のハイブリッド開催
場所:大阪女学院大学2階演習室

プログラム(予定)
14:00~14:20 挨拶・自己紹介
14:20~16:20(報告60分+討論60分)
*英語にて行われます(通訳なし)

発表者:ジョシュア・リカード氏(Dr. Joshua Rickard)(熊本大学多言語文化総合教育センター特任准教授)

タイトル:Social Fragmentation and Changes in Community Organization in the Post-Oslo Era

発表要旨:This talk will focus on social fragmentation in Palestinian communities that has developed through various levels of isolation, and the ways that communities have adapted in response. Increased political and class divisions since the Oslo process, as well as frequently changing restrictions, have resulted in changes in how communities relate to each other, contributing to the extraordinarily personal experience of uncertainty in everyday life. With a focus especially on the Nablus region I will discuss changes in community formations and expressions of identity over time, and the possibility for a reformation of social organization which transcends traditional political discourse.

コメンテーター:髙橋宗瑠氏(大阪女学院大学教授)

(休憩10分)

16:30~17:30 関西パレスチナ研究会運営会議

■参加申し込み方法
参加ご希望の方は、開催前日までに下記のフォームに記入の上、送信してください。(オンライン参加の方には開催前にZoomリンクをお送りします)
https://forms.gle/M2nm5XA6RciVoogm6

■主催:関西パレスチナ研究会  palestine.kansai[at]gmail.com ([at]は@に変えてください)
   (研究会ブログ:http://kansai-palestinestudies.blogspot.jp/

■共催:科研費基盤研究(B)「ポスト・オスロ合意期におけるパレスチナ人の新しいネットワークと解放構想の形成過程」 (研究代表者:今野泰三 課題番号:22H03831)

報告