Zionism and Territory: The Socio-Territorial Dimensions of Zionist Politics

本著の特徴は、Frederick Jackson Turnerが提唱した「フロンティア」という概念を、特定の社会が入手・利用可能な「無人の領域」の度合いを表す量的概念として再定義した上で、ユダヤ人入植者と先住アラブ人の関係や、入植者が直面した物理的制約を分析の中心に据えてイスラエルの政治体制・制度・イデオロギーの生成と変容を考察する点にある。本著では、ユダヤ人移民社会が低いフロンティア性のもとで建設されたため、新たな土地を入手するために高い経済・政治・社会的費用を払わざるをえず、地元住民と完全に排外的な関係をもつこともできなかったと論じられる。

本著執筆当時、ユダヤ人移民とパレスチナ・アラブ人の関係を中心にイスラエルの政治社会史を描いた研究はほとんどなく、イスラエル人学者による研究としては画期的なものだったと言えるだろう。著者はすでに亡くなったが、長年エルサレム・ヘブライ大学で教授を務めた社会学者。(今野泰三)