悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事

エミール・ハビービーによる小説、『悲楽観屋サイードの失踪にまつわる奇妙な出来事』(الوقائع الغريبة في اختفاء سعيد أبي النحس المتشائل)の初の日本語訳である。

物語としての価値はもとより、端々に現れる単語それぞれに込められた意味を追うことで、イスラエル国内でパレスチナ人として生きることを定められた主人公サイード(著者のハビービーと置き換えて良いかもしれない)が生きた世界が圧倒的な現実味をもって立ち現れる。訳者による脚注が日本語読者の理解を促進するため、パレスチナ問題の入門書としても価値がある。(鈴木啓之)