東方問題再考
パレスチナ問題とアラブ・イスラエル紛争の根本原因を、「東方」概念の歴史的展開を軸に世界史的視点から論じた論考。
本論考の特徴は、ヨーロッパとイスラム世界を相互に切り離された自己完結的な世界と捉える見方を批判し、十字軍、東方問題、パレスチナ問題という3つの局面を、両世界の「相互浸透性」の一貫した歴史として眺め直す点にある。また、ヨーロッパで生まれたキリスト教世界対イスラム世界という世界対置論がオスマン帝国との相互浸透の中で変化せざるをえず、そこから「東方問題」すなわち「社会を宗教とか宗派によって多角的・多層的に分裂させ、対立させあわすというエスニシティ紛争のシステム」が出現したという主張から学ぶところは多い。
シオニズムを、アラブ民族主義の出現によって東方問題のマネージメントが挫折した後に開発された「新たな手法」と捉え、パレスチナ問題を「アラブをユダヤ人と非ユダヤ人に分割するもの」と捉える見方は、中東研究・国際関係論に一つのパラダイムを提示した。パレスチナ問題だけでなく、中東研究と国際関係論の接点に関心のある方にも一読をお薦めしたい。(今野泰三)