[ハガナーの歴史書]ספר תולדות ההגנה

初代教育大臣ベン=ツィヨン・ディヌールが編集したイシューヴ建設からイスラエル独立までの軍事史。全3巻4500頁。「ハガナー」とは直接には英委任統治期の地下軍事組織の名称だが、イシューヴ期全体の軍事史を記述していることから当時のハガナー(防衛)をめぐる事柄全体が対象だと言える。

ここでの防衛の概念は、ユダヤの民による祖国イスラエルの地の再保持においてアラブ人の攻撃やイギリスの抑圧に直面するなかで出てきた本能的反応だされる。その時代区分には、自然発生的・局所的な「自衛」から組織による「防衛」へ(1881年第1次アリヤー~1920年テルハイ事件)、「防衛」からより主体的な社会建設を行う「闘争」へ(1921年「ヤッフォ・ポグロム」~1939年マクドナルド白書)、「闘争」から国家形態で戦う「戦争」へ(マクドナルド白書~独立戦争)という三段階があり、各1巻が割かれている。ネーション構築の観点から特筆すべき点は、本書はこの三段階を有機的構成体であるイスラエルの民の発展過程としている点である。つまり、ユダヤの民はイスラエルの地での入植によりこの三段階を経験するなかで、民族としての精神性を「発見」し、組織化し、かつ建国によって完全なものにした、と解されている。

同書の構想は1948年に世界シオニスト機構執行局に提出され、イツハク・ベン=ツヴィら5名から成る編集局が設立され、ディヌールが編集長となった。その後国防省の出版局「マアラホート」からの出版が決まった。

同書は、パレスチナ人との「1948年論争」の火種となった「ダレット計画」などを含む1次史料を収めている。またハガナー・メンバーから集められた約二〇〇〇の証言にも多く拠っている。これらの史料や証言は後のハガナー・アーカイヴ、国防軍アーカイブの基礎となった。(金城美幸)