1967年以降のヨルダン川西岸地区とガザ地区の貨幣と金融について、歴史・制度・現状・経済的影響について包括的に論じたもの。筆者の知る限り、オスロ以前のヨルダン川西岸地区とガザ地区の金融について包括的な知見を得られる唯一の英語文献である。

本文は3つの部分から構成されている。第一部では当時現存した貨幣と金融の制度を黙認されているインフォーマル部分を含め紹介する。第二部では「金融的抑圧」について分析するための理論的枠組みについて説明する(著者はマッキノン=ショー理論を用いている)。第三部では占領地の経験を理論と関連づけて論じ、ヨルダン川西岸地区とガザ地区における貨幣と金融に関する問題を検証する。

第三次中東戦争終結後にとられた最初期の措置のひとつがアラブ系金融機関の閉鎖であることや、その結果として金融仲介機能をほぼ持たない経済にヨルダン川西岸地区とガザ地区の経済がなってしまっていることの意味を、著者は独立したアラブ人経済の発展を弱め崩すためだとし、アラブ系金融機関は一部で生き延びすばらしい発展をとげたが、基本的に一部領域しかカバーしていないと結論している。(鈴木隆洋)