Barricades and Banners: The Revolution of 1905 and the Transformation of Warsaw Jewry

1905年革命前後のロシア領ポーランドのユダヤ政治(シオニズムやブンドその他)についてのモノグラフ。従来の研究が意識的・無意識的に「コミュニティ」の存在を前提に、それを主体として立論してきたのに対して、本書は言説や制度的な側面の影響を重視する。ロシア帝国の1905年革命の結果翌年に国会が設置され、そのために選挙が行われたことで、それまでの政治の在り方が変わる(特にそれによって、議席数が明白化すると同時に人々の間で民族代表という観点が不可避的に先鋭化してしまう)。それはひいてはユダヤ人といわゆるポーランド人との関係も変えていった。例えば、反ユダヤ主義について、安易に19世紀終わりから続く反ユダヤ主義増加の傾向で見るのではなく、この時期の制度的変化がさらなる反ユダヤ主義を加速した点に注意が向けられる。かくして、漠然と伝統的なユダヤ共同体が近代的ネーションに発展していったとする旧来の捉え方の盲点を、ごく限られた時期に絞ることで逆に大きく照らし出しているところが本書の醍醐味である。くわえて、本書の提示する事例は、議会制民主主義それ自体を否定するわけではないが、その導入にあたって意図せず生じてしまう深刻な弊害を示唆しているともいえる。(鶴見太郎)