Class Struggle in the Pale: The Formative Years of the Jewish Workers' Movement in Tsarist Russia

ロシア帝国におけるユダヤ人労働運動の研究。萌芽期の1880年代から1900年頃までを扱う。Henry Tobias, The Jewish Bund in Russia: From its Origins to 1905 (Stanford, CA: Stanford Univ. Press, 1972) が指導者層に焦点を当ててブンドの政党史を描いたのに対し、本書は労働運動を介してブンドに接続した末端のユダヤ人労働者の動きに焦点を当てる。彼らはいかなる期待をもって労働運動に参加し、その期待はどの程度実現されたのか。ロシアにおいて他の社会集団と区別される「ユダヤ人」の「労働運動」が生まれたのは何故か。筆者は労働者層の多様な声ーーしばしば党(ブンド)指導部=「インテリゲンチア」の志向と食い違い、両者の間の対立をも生み出したーーを拾い上げながらこれらの問いに答えを出していく。筆者によれば、賃上げや労働時間の短縮といった労働運動のもたらす経済的な成果がしばし容易に撤回される短期的なものであったのにたいし、意識や生活態度の変化といったいわば文化的な次元で得られた成果は、大衆層の生活を変化させるのにより長期的な効果をもたらした(”new Jewish men” =「新しいユダヤ人」の生成を目指す志向)。この視点は、戦間期ポーランドのブンド運動を束ねた一つの重要な要素として「文化」を扱ったGertrud Pickhan, “Gegen den Strom”: Der Allgemeine Jüdische Arbeiterbund “Bund” in Polen, 1918-1939 (Stuttgart, München: Deutsche Verlags-Anstalt, 2001)に効果的な形で引き継がれている。(西村木綿)