Colonial Effects: The Making of National Identity in Jordan
本書は、「典型的な脱植民地化した国民国家」(p.1-2)としてのヨルダン・ハーシム王国における、ナショナルアイデンティティと国民文化の形成を主題としたものである。とりわけ、ベドウィンとともにパレスチナ系住民の包摂および排除のプロセスが重視されている。パレスチナ系ヨルダン人がヨルダンの政治・経済・社会・文化の各方面においてどのような役割を果たしてきたのかについて、その実態が詳細に述べられており、ヨルダン研究のみならず離散パレスチナ人コミュニティの比較研究においても有用な文献であるといえよう。
全五章からなる本書では、特に以下の三章においてパレスチナ問題との関わりが重要な論点となっている。第一章では、1948年以降に旧委任統治領パレスチナ出身者にも付与されてきた国籍をめぐる法制度の変容が取り上げられている。第四章では、ナショナリズムとそれに対する軍の役割について論じられる中で、内戦を経たパレスチナ系住民の位置づけの変化について示されている。第五章では、西岸地区の併合および分離をめぐる政治やヨルダン政府とPLOの関係、そしてトランスヨルダン系、パレスチナ系の両者によるナショナル・アイデンティティの形成が論じられている。 (今井静)