Hollow Land: Israel's Architecture of Occupation

本書は、長年イスラエルの人権団体に関わった建築家が著した、パレスチナ被占領地の複雑な空間構造と権力構造を包括的に分析した文献。本書の独自性は、イスラエル政府と軍がイデオロギー的・戦略的な目標を実現するために占領地に「構造化された無法状態」を創出し、空間と建造環境を利用・改変していった結果、占領地が明確な物理的・法的・政治的形態をもたない「空虚な土地(Hollow Land)」になったと論じる点にある。

本書では、イスラエル政府・軍の中で占領の法的・倫理的問題が問われなくなっていく過程が論じられるほか、建造環境の政治的・軍事的利用の例として、ユダヤ人入植地の構造や聖都エルサレムのイメージ作り、パレスチナ自治政府とイスラエル政府による「主権の分割」の様相なども考察されている。

本書は、文章構造が複雑で難解な表現も多く読み解くのには苦労するが、占領が持つ暴力性について、詳細に、かつ斬新な視点で論じたものとして、時間をかけて読むに値する一冊である。(今野泰三)