Palestinian Refugees: Challenges of Repatriation and Development

2003年6月にカナダで開かれた、パレスチナ難民研究の現況の評価を目的とした会議の成果をふまえてまとめられた論文集。会議の参加者のうち、パレスチナ自治区やノルウェー外務省の職員、開発コンサルタントやイスラエル人研究者など、多彩な顔ぶれの13人が本書の執筆者として名を連ねている。

本書は、中東和平プロセスが推進する二国家解決案が国際社会に広く受け入れられているとした上で、二つの前提を自明のものとしている。一つ目は、難民たちが西岸・ガザ地区に将来建設されるパレスチナ国家への移住を望むであろうということ。そして二つ目は、帰還の実現に関わらず、西岸・ガザ地区にすでに居住している住民のためにもパレスチナ自治区における開発が必要であるということである。それらを踏まえて、本書の各論考は難民の帰還・吸収に有効な政策を見きわめ、その社会的・経済的影響を推し量ることを目的としている。

本書の内容は大きく三つに分けることができる。第1章では、先に取り上げた本書の目的や各章の要約が述べられており、全体の概観をつかむことができる。第2章から第4章は帰還の当事者である難民についての論考であり、統計的観点からの実態やホスト国によって異なる生活水準、そして親族関係等を基にした帰還の動機が示されている。第5章から第10章では、難民の西岸・ガザ地区への帰還と統合の具体的なプラン、およびその実効性が議論されている。その一例としては、難民を自治区に住まわすためにどの地域を開発し、どのように難民キャンプの状況を改善するのかといった政策レベルでの議論や、それにかかるコストについての検討が挙げられる。 (今井静)