Palestinian Village Histories: Geographies of the Displaced

1948年のナクバのなかで破壊されたパレスチナ人村落にかんする歴史書は、これまでに約120冊が出版されてきた。これらの歴史書はディアスポラのパレスチナ人の地縁・血縁ネットワークを通じて編集・配布されているため、長らくその全貌を把握することが困難であった。しかし、同書の著者はパレスチナおよび近隣アラブ諸国での調査を重ねるなかで、112冊の歴史書を収集し、「ビレッジ・ブック」としてカテゴライズしたうえで分析対象に据えた。これまで破壊されたパレスチナ人村落の過去を伝える文字資料として広く利用可能とされてきたものは、他者(イスラエル、イギリス、国際機関等)の視点による記録であった。しかし、同書は文字史料に現れないかつての村落住民たちの記憶・証言を、その重層性や葛藤を書きこみながら示し、今日のパレスチナ人社会のなかでのナクバの集合的記憶が、離散社会のなかでいかに記録され再生産されているのかを明らかにする。2011年、北米中東学会よりアルバート・ホーラーニー賞受賞。(金城美幸)