Rising Dust: A Cultural History of Dance in Palestine

オーストラリア出身のダンサー/コレオグラファーによる、パレスチナにおけるダンスの通史。パレスチナのダンスの起源にこだわり最古の文書記録として3800年前のマリ王ジムリリムの書簡や聖書における記述などの紹介から始めているのにはやや違和感が否めないものの、全体としてはしっかりとした内容である。パレスチナのダンスというと、現在のダブケの興隆のイメージから1970年代の文化復興運動以降のみに焦点をあてられがちであるが、オスマン朝期や委任統治時代にも、またダブケ以外のさまざまな形態のダンスも、パレスチナ社会に根づいていたことが分かる。しかしやはりもっとも興味深いのは、1980年代以降、さまざまなダブケのグループが競合し、質的にも変化を遂げてきた下りである。

筆者はダンサーとしてパレスチナでもっともよく知られているダンス・グループ「エル=フヌーン」の作品制作にも参加している。そうした関係性の中でさまざまな事情に通じ、その内容が本書に生かされていることが窺われるが、他方でそのように距離を近づけ過ぎてしまった結果、批判的な記述がしにくくなるといった問題はなかったのだろうか。研究とその対象との関係のあり方についても考えさせられる。(田浪亜央江)