Russian Jews between the Reds and the Whites, 1917-1920
ロシア革命に際してユダヤ人は様々な潮流に属していた。当時から流布していた「ユダヤ人=ボリシェヴィキ」という固定観念(それ自体反ユダヤ主義の原因となっていた)に反して、ボリシェヴィキにユダヤ人は少なく、多くはメンシェヴィキやユダヤ人の組織であるブンドで活動していた。また、商業従事者(と言っても多くは経済的には下層)も多かったユダヤ人にあっては、社会主義支持は自明ではなく、革命時はシオニズムの支持もユダヤ系の政党内では最も高く、十月革命後、自由主義者と君主主義者からなる白系勢力に与したユダヤ人も少なくなかった。そうしたイデオロギーの狭間でユダヤ人をさらに苦しめたのはホロコーストの次に規模の大きかった内戦期のポグロムである。赤軍上層部全般と、白軍上層部のごく一部を除いてポグロムを抑える努力は限られ、白軍を中心に(しかし赤軍内でも確実に)あらゆるところでポグロムは発生した。本書が明かすのは、単なる伝統的な反ユダヤ主義のみならず、またドイツ的な人種主義的なものとも異なる、多民族環境における疑心暗鬼(例えば、ポーランド人のスパイ、といった不確かな疑惑)がポグロムを助長していた事実である。こうしたメカニズムはソ連東欧におけるホロコーストでも繰り返されたという点で、本書はその初期の重大な事例を示したともいえるだろう。(鶴見太郎)