Speak, Bird, Speak again: Palestinian Arab Folktales
パレスチナを代表する著名な社会学者(ムハッウィー)と人類学/民俗学者(カナーアナ)が1978年から80年にかけてパレスチナのガリラヤ・ガザ・ヨルダン川西岸地区で収集し、約10年を費やして精密に調査・分類を行い、詳細な註を施したパレスチナの民話集成である。両者の肩書きは上記の通りだが、むしろムハッウィーが言語的な面を担当し、カナーアナが社会文化的な分析を行ったとのことである。当初17名の話者から約200の民話を集録し、そのうち45の話を選んで「個人」「家族」「社会」「環境」「世界」という大項目に分類し、さらにおよそ4~5の話を小項目に分類し、それぞれ解説を付けている。パレスチナ社会における家族関係や人間関係、性のあり方、また自然との関係や世界観などにも触れることの出来る、貴重な資料である。
また2001年にアラビア語版が刊行されたことによって、本書の価値はますます高まった(Mu'assasa al-dira:sa:t al-filasti:ni:ya より刊行)。アラビア語版ではパレスチナ方言で語られた通りで収録されており、英語版では伝わらなかったニュアンスが生き生きと伝わってくるためである。註も単なる翻訳ではなく、アラビア語話者にとって有用だと思われる内容に改編されている。とくに「民話」に関心が無い読者であっても、パレスチナ人のアイデンティティのよりどころを求める文化運動・フォークロア運動のアカデミズムにおける成果を確認するという意味で貴重なものである。
なお、このうち12の民話を選びフスハーで再録したものが、子供向けのアラビア語の子供向け絵本として2010年に同じ出版社より刊行されている。(田浪亜央江)