The great war and the birth of the modern passport system

本論文はパスポートの歴史の専門家による、第一次大戦期に生まれた近代パスポートシステムに関する論考である。

本論文では、パレスチナ/イスラエルに関する議論は出てこない。しかし、第一次大戦の所産である委任統治領パレスチナとイスラエル共和国のシステムを考える上で本論文が持つ意味は大きい。

国家が「国民」と認識する集団のアイデンティティや出自、内面にまで踏み込んで管理しようとし、それによって付与する権限や特権を決めるということができるようになった歴史的背景や、「市民」と「外国人」の条件を定義するようになった意味はなにか、という論点に関して本論文は第一次大戦期に国家が人の移動と人の出自の管理を行うようになったという点においている。これは誰がその国の市民であるかを、国家が専有的に決定することができるようになったことを意味する。

委任統治下において人々が「パレスチナ人」として英国から出入国の管理を受けるようになっていたことや、現在のイスラエル共和国においてパスポートがもつ政治的意味、国家が国民の条件やアイデンティティを一意的に決めることができる体制の歴史的な背景を、その起源に遡って考察するためにも重要な論文である。(武田祥英)