アラブ革命の遺産――エジプトのユダヤ系マルクス主義者とシオニズム
2人のユダヤ系エジプト共産主義者――アハマド・サーディク・サアドとヘンリ・クリエル――の1952年革命前後数十年の軌跡を描いた大作。双方の両親や祖父母はヨーロッパから移住したユダヤ人であり、クリエルにいたっては生涯改宗することはなかった。双方とも、狭義のユダヤ教にはあまり関心を示さず、マルクス主義者としてエジプトの共産主義運動に身を投じた。本書で強調されるのは、両者に共通するインターナショナリズムである。アラブ・ナショナリズムの雄となっていったエジプトのナショナリズムやその影響を避けられなかったエジプト共産主義運動のなかで、この立場が彼らを孤立させていった。そのことによって本書は、当時の革命がいかなる性質を持っていたのかを逆照射する。本書のもう一つの柱は彼らのシオニズムとの関係であり、その際も彼らのインターナショナリストとしての立場が、シオニズム批判に繋がっていった事実が確認される。しかしまさにシオニズムの発展がその一端となってアラブ・ナショナリズムが勢いを増したことが、インターナショナリストとしての彼らを周縁に追いやったのは歴史の皮肉である。(鶴見太郎)