ユダヤ教と原理主義-シオニズムの源流を求めて-

シオニズムとイスラエルとユダヤ教の関係性を扱った研究は、シオニズムを世俗的なメシア主義ないしはユダヤ人の精神復興運動と捉えてその内的な精神性に着目した研究と、宗教シオニズムや国家・領土の神聖化を生みだした社会経済構造や政治状況を中心に考察する研究があり、その間を結びつけて統一的な枠組みを構築することが研究者に課された課題である。本論考は後者の方法論を否定し、前者に強く傾倒しており、それ自体、この問題を巡る論争の一端を垣間見られる数少ない日本語文献である。

著者は、シオニズム思想が淵源において政治思想ではなく宗教思想であったと論じ、その事実を理解しないと、イスラエル政府がなぜ土地をめぐっては非合理的な政治判断をくりかえすのかという文脈は見えてこないと主張する。終末論的な理想主義と冷淡な現実主義というシオニズムの2面性を捉え、その間の矛盾から弁証法的に「現在」を理解しようという方法論から学ぶところは大きい。(今野泰三)