現代イスラエルの社会経済構造―パレスチナにおけるユダヤ人入植村の研究

著者の没後に編纂・刊行され、刊行直後から最近まで数多くの研究者によって高く評価されてきた名著。

本著の特徴は、地誌学とマルクス経済地理学を基盤とする地域構造論という社会科学の手法を用いて、パレスチナという地域そのものの史的発展を分析した点にある。著者の徹底的な本質主義の忌避と、伝統と近代の断絶と連続性の問題としてユダヤ人の植民史とパレスチナ地域の発展を捉えた視点から学ぶことは多い。また、シオニズム史観の裏返しとしての超歴史的・本質主義的なパレスチナ地域観を批判し、ロマンティシズムと現実の間のギャップに対する問題意識をもとに、シオニズム運動の展開とパレスチナの地域性の形成過程を結合して考察した本著は、トップダウンで研究対象の地理的範囲を決めてしまうアメリカ発祥の地域研究への再批判としても大きな意義をもつ。

著者は、1959年にイスラエルに留学した後、アジア経済研究所研究員や明治大学文学部教授を務めた地理学者・地域研究者。(今野泰三)