Failing Peace: Gaza and the Palestinian-Israeli Conflict

本書は長年ガザ地区を拠点として現地調査をおこなった政治経済学者であるサラ・ロイが、1993年のオスロ合意以降の和平プロセスをガザからの視点 で捉え、和平プロセスにより投入された国際援助が現地の地域社会にどのような影響を及ぼしたかを分析しながら、占領下のパレスチナ社会を包括的に捉えよう とする試みである。

本書は著者のパレスチナ/イスラエル問題に対する関心として、自身がユ ダヤ人として経験したホロコーストを振り返るところから始まる。1980年代のインティファーダの時代からガザを調査する著者は、オスロ合意の華やかな舞 台とは裏腹にガザ社会が和平プロセスから切り離され、政党間・派閥間抗争などの亀裂を深め、経済の停滞、そして占領が非開発(De- development)という合理的な構造の転換を図る経済メカニズムを拒絶された状態、内的に社会の発展を抑制させる状態を作り出す様を描き出した。

これは、これまでヨルダン川西岸地区やPLO政権を中心として語られてきた和平プロセスとは別の示唆を与えるものであり、非占領地社会の内部構造を理解する上で重要な書籍である。(塩塚祐太)