For Our Freedom and Yours : the Jewish Labour Bund in Poland, 1939-1949

第二次世界大戦開始から戦後の1949年(=ポーランドで統一労働者党以外の政党活動が不可能となった時期)までのポーランドのブンドを扱った歴史書。ドイツ軍の侵攻、ゲットーの建設、ユダヤ人虐殺の情報の広まり、といった刻々と変化する情勢の中で、ブンドの指導者層、一般の党活動家、青年活動家たちがたどった軌跡を、専らアーカイヴ資料に依拠して丹念に描き出している。各都市におけるゲットー内の文化・青年活動や抵抗運動の形成、その中での他の政党(おもにシオニスト)とブンドの関係、亡命した指導者たちによる北米の労働者団体(Jewish Labor Committee)内での救援活動、ソ連当局によるヴィクトル・アルテルとヘンリク・エルリヒ(ポーランド・ブンドのカリスマ的指導者)の殺害、など、扱われているトピックは多岐にわたり、包括的に全体が見渡されている。ロンドンのポーランド亡命政府で活動し自殺したブンド党員、アルトゥール・ジーゲルボイム(Arthur Zigelboym)を一つの軸に据え、消滅しゆくポーランド・ユダヤ社会と国外のユダヤ/非ユダヤ人・団体の動きを冷静な筆致で描きだす箇所は圧巻である(まさに学術的な意味でも)。終章では、戦後、ポーランドで再建され共産主義体制下で活動したブンド(戦前のそれとは人員面で全く異なる)と、北米を中心に設立された「ブンド世界会議」とが、共通の目的を持ちえず解離していく様子が描かれる。結局、「ブンド」という現象が、東欧のイディッシュ世界なしには生存不可能だったとしめくくる筆者のことばは説得的に響く。

すぐれた研究書であるが、唯一の難点(無いものねだり?)としては、1939年9月のドイツ軍によるポーランド侵攻からすべての記述がはじまり、それにいたるまでのポーランド・ユダヤ社会やポーランド・ブンドについての説明が全くないことである。それゆえ前提知識なしに読むには多少の困難が伴う。(西村木綿)