“Gegen den Strom”: Der Allgemeine Jüdische Arbeiterbund “Bund” in Polen, 1918–1939
従来、ブンドについての研究は1917年までのロシア帝国期の活動を扱ったものが大半であった。本書は両大戦間期ポーランドのブンド運動について論じた数少ない研究書の一つ。記述の体系性において同時期のブンドを扱ったBernard K. Johnpoll The politics of futility; the General Jewish Workers Bund of Poland, 1917-1943 (Ithaca, NY: Cornell Univ. Press, 1967)をはるかに上回る優れた研究書。通史的な記述形式をとらず、以下の四つの観点から、ブンド運動の実態に多角的に光を当てる構成となっている。(1)ブンドの党・社会的ネットワークの構成と広がり、およびこれらを束ねた諸々の実践(2)ヨーロッパの労働運動(インターナショナル)における位置づけ、(3)ポーランド国内の政治への関わり、(4)ユダヤ社会内部での文化・社会活動。
本書の独自性・有効性は、Ezra Mendelson(Class Struggle in the Pale: the Formative Years of the Jewish Workers' Movement in Tsarist Russia [Cambridge: Cambridge Univ. Press, 1970])やJohn Bunzl(Klassenkampf in der Diaspora: zur Geschichite der jüdischen Arbeiterbewegung [Vienna: Europa Verlag, 1975])など従来のユダヤ人労働運動研究が用いていた「階級」概念に代わって、「ミリュー」ーー職業・教育水準、宗派などの「客観的」な社会的状況と、価値観、メンタリティ、思考様式などの「主観的」な内的態度の相互影響によって構成された文化集団ーーの概念を用いることで、ブンド運動の支持基盤の実態に迫ろうとした点にある。筆者によれば、ブンドの潜在的な支持基盤をなしたミリューとは、とりわけ1929年以降、労働市場から排除され貧困化していた労働者層のユダヤ人ーー「階級」意識を発展させていない家内労働者、手工業労働者、小商人をも含むーーであり、彼らは主観的には、ポーランド社会全体からすればユダヤ人として、ユダヤ人内部では下層階級として、主流社会から二重の閉め出しにあっているという心理を共有した集団をなしていた。
筆者は、1930年代末のポーランド主要都市での市議会選挙、ケヒラ(ユダヤ人共同体)選挙結果に見られるブンドの政治的影響力増大の要因として、第一に、このミリューを増大させたポーランド・ユダヤ人の産業構造の変化(賃金労働者・肉体労働者の増大、貧困化、「プロレタリア」化)を挙げる。また、これに平行して起こった社会的変化として、伝統的宗教共同体の解体や価値観の変化(とりわけ、ユダヤ社会において従来否定的に見られてきた肉体労働の受容)を指摘する。筆者は、ドイツにおける社会民主主義ミリューの形成、拡大、強化にとって「労働」と「文化」を軸とする「協会」が決定的な役割を果たしたことに言及しつつ、ブンドが党外の諸協会(労働組合、青年組織、体操協会、文化協会)を通じて「労働」と「イディッシュ文化」を価値あるものと掲げ、新たな思考様式や行動形態を提示することで、そのミリューを党のもとに結集することに成功したと述べる。
Jack Jacobs, Bundist Counterculture in Interwar Poland(Syracuse, NY: Syracuse Univ. Press, 2009)はこの視点を展開し、ブンドが諸協会を通じて1920年代半ば以降に形成した「対抗文化」の内実を探ることを、ブンド運動の実態とその限界を探る鍵として提起している。(西村木綿)