The Ethnic Cleansing of Palestine
歴史家イラン・パペが1948年のナクバに関してまとめた歴史書。タイトル通り、ナクバをパレスチナにおける「民族浄化」と捉え、それが偶然の積み重ねや場当たり的になされた命令の結果として起きたのではなく、マスタープランが存在し、それに基づいてダレット計画が決定され、命令され実行されたことを明らかにしている。
本書で最も興味深いのは、マスタープラン決定に至るまでの経緯であろう。ベングリオンの側近たちによる「顧問団」と呼ばれる集団が1947年10年頃までに形成され、ユダヤ国家を実現するための政策決定に関わっていた。民族浄化政策への異論を唱え、例えばパレスチナ人の分断統治を主張する者もいるなか、出来るだけ多くのパレスチナ人を無差別に追放する方向に向かう経緯が資料を駆使して具体的に明らかにされている。その結果、パレスチナ側の抵抗を引き出す挑発を行うのではなく無抵抗の村民を追放するというように戦術が変化してゆく経緯が、明確に描かれている。
ユーゴスラビア内戦によって人口に膾炙した「民族浄化」という言葉を使ってナクバを指し示す呼ぶことには、賛否両論があるだろう。しかし、「民族浄化」という言葉が実際に使われたということや、過去の記憶や出来事そのものの抹殺をともなった事態をナクバ(大災厄)と呼ぶのでは不十分であることだけでなく、あえて「民族浄化」として捉えることで新たに見えてくるものをまずは本書からじっくりくみ取るべきであろう。(田浪)