The Jews of Britain 1656 to 2000
近代初期のイギリス・ユダヤ史専門家による近現代イギリス史の通史。念頭に置かれているのは、それまでヨーロッパ・ユダヤ人の成功例として単一のストーリーに収められがちだった歴史の多様性を救い出すという点である。ただ、他の地域のユダヤ史にも見られる諸特徴を見出しているにすぎない印象もある。そのなかでイギリス・ユダヤ史に顕著な特徴は、例えばドイツ・ユダヤ史で定番となっているモーゼス・メンデルスゾーンに始まる知的な領域での近代化に準じた流がイギリス・ユダヤ人の近代化の場合はあまり見られないという点である。あるいは、米ユダヤ史同様、ユダヤ人の社会主義運動は、体制転覆よりも、短期的な賃金上昇に力点が置かれていた。イギリスで反ユダヤ主義が相対的に少なかった要因の一つは、ユダヤ人口がさほど多くなかったなかで、「他者」として、カトリックやアイルランド人、フランスのほうが注目を浴びていたことがあった。等々(鶴見太郎)