A Very Political Economy: Peacebuilding and Foreign Aid in the West Bank and Gaza

1993年のオスロ合意によって、欧米を中心とした大規模な援助がパレスチナに投入されることが決定した。この確約された援助金を現地社会に投入していく過程として、ドナー間、セクター間、カウンターパート間などのアクターで一貫した援助をおこなうためにさまざまな調整委員会が設置され、その中で援助構造とも言える巨大な枠組みが編成されるようになった。

本書は、そのようなオスロ和平プロセス期の国際援助構造がどのような展開を持ち、なぜ当初に期待された通りの成果をもたらすことができなかったのかをまとめたものである。本書は援助効果に対する評価という視点で構成され、その章立ては援助の導入(mobilizing)、調整(coordinating)、配分(Delivering)、設置(Allocating)という実務的な枠組みが採用されている。しかしこのそれぞれを評価していくに辺り著者は援助の過程に負荷される外部・内部の要因を詳細に説明する。

例えば5章の「援助の配分: 確約から実践まで」では、和平プロセス期を通じて確約された援助の拠出は恒常的に遅滞しており、それが政治プロセスに負の効果を及ぼしたとしている。この評価を出発点として、この遅滞の要因が政治プロセスの展開との関係、政策と実践の状況の乖離、自治政府側、イスラエル側それぞれがもたらす制約、そして援助ドナー間、またその内部のさらにミクロな間での競争などさまざまなレベルからもたらされていることを提示し、それぞれに分析がなされている。

本書はこのような援助効果に影響を及ぼす構造的な問題を浮き彫りにし、技術的な改善点を指し示す提言的な結論で締められている。著書が出版された2000年から現地ではインティファーダが勃発し、援助を取り巻く環境も大きな変化が起こるが、このような状況に至るまでの援助の政治的・社会的に関与を理解する上で貴重な書籍であるといえる。(塩塚祐太)